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『どんヤナギの回復速度』
 

次の電車も待てるはずなのに、わたしはいつも走ってしまう。
それが都会で生きることだから。


【あらすじ】
都会で働く編集者の「わたし」は、本当はもう一本あとの列車に乗る予定だった。それでも、なぜか急いでしまう。誰にも急かされていないのに、いつも走ってしまうのだ。

取材で訪れた東北の小さな農村地。
一両だけのディーゼル列車に身を任せ、ふと運転席をのぞくと──懐かしい“どんヤナギ”の顔があった。

その日、列車の停車時間がやけに長い。発車ベルも鳴らない。
運転士が犯した“電車のタブー”とは──。

【読者の声】
「忙しい現代人にこそ読んでほしい!」
「登場人物を通じて、速力で走る日常から離れ、ゆっくりと時間を過ごすことの価値を再認識させてくれる。」
「遅さや不完全さを受け入れることで得られる温かさと再生の力を象徴している。」
「優しさや思いやりはすぐに返ってこなくても、遅れて届くもの。日常の忙しさの中で忘れがちな“待つこと”の美しさを描く。」

どんヤナギによる“少し長い停車”が、忙しい日々の時間をそっと変える。
止まらない日々の中で、「立ち止まる」ことの意味を静かに問いかける物語。

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『かなたの肩書き』
 

“ヤングケアラー”って、誰が決めるんやろな。──
他人がくれた肩書きの中で、俺は自分の言葉を探した。

【あらすじ】
就活中の大学生・沢村夏向には、肩書きがない。エントリーシートの「これまでの人生で一生懸命に取り組んだことは?」という問いに、書くことがなく、半ばやけくそで綴ったのは、父親と中華料理屋のことだけ。

それでも面接は通過し、気づけば夢のスピーチ大会へ──。
突然の「ヤングケアラー」という肩書きに揺れながら、夏向は自分の言葉で人生を語り直していく。

【読者の声】
「“ヤングケアラー”という肩書きに込められた違和感と、自分の言葉で生きる強さに胸が熱くなった。」
「夏向と父の関係が本当にあたたかくて、読みながら何度も涙が出た。自分の人生を誰かに決めさせない! と改めて思いました。」
「“救われる”とは、誰かに決められることじゃなく、自分で選び取ることなんだと教えられた気がします。」
「人物が生き生きとしていて、情景が目に浮かぶ。短編なのに、人生の厚みが詰まっていました。」

自分の人生は、自分自身の言葉で紡ぐ──。
他人に与えられた肩書きではなく、「自分の言葉」で生きることを模索する青年と家族の物語。

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『スポットライトのない劇場』
 

みんな、見ろ。はよ気づけ。おれは、元芸人・現清掃員。舞台を失った男に、夕焼けがスポットライトを落とす。

【あらすじ】

元芸人の田所光は、今や団地の清掃員。かつてのようにスポットライトを浴びることが生きる理由やと思っていたが、今ではもう、誰にも見られへん。薄暗い階段の汚れを黙々と落とす毎日だ。

そんな田所の前に現れるのは、同僚の八野。要領も悪く、住人に絡まれてばかりなのに、なぜか楽しそうにゴミを拾い、落ち葉を掃く。その姿が、田所にはどうしても癇に障る。

やがて、かつての仲間との再会、自分の選んだ道と過去の失敗の直視。鬱屈した翌朝、八野が欠勤したことで、田所は彼の「秘密」を知ってしまう──。


【読者の声】

「どんな場所でも光を見つけられる強さにハッと。スピード感ある文章なのに、じんわり沁みる読後感が新鮮!」
「ギスギスした空気が、いつの間にか心を温める物語に。誰にも褒められない仕事に宿る力を感じました。」
「主人公の気づきの瞬間に胸が熱い。きれいごとではない優しさがリアルで、余韻も残ります。」
「情景と人物のコントラストが鮮やかで、自分の人生を重ねて読んでいました。短編だからこその濃さが心に染みる。」

多様な人のやさしさを描いてきた岸田奈美が、清掃業という人目につかない仕事の中にこそある光を見つめ、「人にスポットライトが当たる」という瞬間を描く。大きくはないけれど、確かな希望がそこにある。

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『声』
 

25歳で看護助手に転職した私。でも職場で与えられた新しい仕事は、
患者のやばすぎるクレームに返事を書き続ける係だった。

【あらすじ】

芸看護師になりたかったはずの私が、総合病院の受付裏で担当することになったのは、患者から匿名で寄せられる「患者さまの声」に返事を書く仕事だった。
『待合室の金魚の目つきが悪い』『採血がヘタすぎる。死ね』……

理不尽で辛辣な言葉が並ぶ紙の束を前に、私はただひたすらに返事を書き続ける。患者さんに寄り添いたかった。ありがとうって言われたかった。けれど、返事は掲示板に貼り出されるだけで、誰の目にも読まれない。

それでも、私は書き続けるしかなかった。
ある日、返事を掲示板に貼り出したその時、背後から澄ました笑い声が聞こえた──。

【読者の声】

「孤独な役割の中にある、小さな優しさに胸を打たれた。」「名もなき力持ちの主人公にスポットライトが当たる瞬間が鮮やか!」
「青服として奮闘する主人公と患者の姿が重なり、切実で心に残る物語。」
「投書する側とされる側の微妙な距離感や感覚が丁寧に描かれ、読後に様々な思いが溢れる。」
ある病院で見かけた『患者様のお声コーナー』の実話をもとにした短篇小説。
「患者さまの声」という無名の声に、無名のスタッフが寄せる回答は無力だ。
だがある日、誰かが足を止める。その瞬間、無名の声と無名の返事が、誰かに届く──。

 
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『彼がいる場所』
 

約束を結ぶ人だけに見えているものがある。
親戚のなかで一番優しかったおじさんと、一番怖かったおばさんの話。

岸田奈美・短編小説シリーズ第一作、電子版限定刊行!
2025年3月、SNS告知から15万人がアクセスした話題作が、ついに電子化。

【あらすじ】
 ユヅルおじさんは、わたしの親戚の中で、いちばん優しい人だった。頼まれたら、断れない人でもあった。
 小学生のわたしが思いつきで「ハムスターが欲しい」とお願いしたことで、月に一度、おじさん宅へ通うことに……。そこには、たいがい機嫌の悪い透子さんがいた。

透子さんは、どうして私がこんなことをとでも言いたいような完ぺきな仏頂面で、毎日毎日、ハムスターの肥満防止としてはあまりに贅沢な鳴門金時を潰していた。
 ハムスターは平均寿命といわれる2年を超えても、なぜか元気に生き続けていた──。

【読者から感動の声、続々!】
「冷たそうに見える人が本当は優しい人。そんな人間の奥行きを感じた。」
「お互いの優しさや思いやりを押し付けるのではない、深いところにある人の優しさが胸に残った。」
「分かりやすい優しさも、わかりにくい優しさも、どちらも尊いことが伝わる。」

数々のエッセイを発表し、明るいユーモアと愛をもってどんな出来事も描き切ってきた岸田奈美だからこそ書ける家族小説。

2025/08/25 電子書籍刊行(コルク)

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