【キナリ★マガジン更新】自動運転でも煽られるのかよ
サンフランシスコに行ってきた。
RADWIMPSのドラマーであり研究者でもある、友人の山口智史さんがスタンフォード大学でトークライブをするというので。本当に感動したので、それについては後日、noteに対談をのせます。
泊まったのはいわゆる観光地っぽいサンフランシスコ市街ではなく、南に車で40分ほど離れた、パロアルトという町。
ひく〜い!
建物ぜんぶ、ひっく〜い!
「ほんまもんの金持ちはひく〜い家に住むんや。タワマンは成金や」と吐き捨てるように教えてくれたのは、誰だったか。
もともと田舎の果樹園で、スタンフォード大学とシリコンバレーのIT企業がやってきて、教授や起業家などのお金持ちが住みはじめた町らしい。スティーブ・ジョブスの家もあった。
いつ歩いても静かで、豊かさが助走つけて殴りかかってくるんだけど、なんだろう、この松井山手感。スパ水春やおふろの王様がありそうな気配。
既視感が貧相なやつというのは、どこへ行ってもこれである。
パロアルトの住人はやさしい。
っていうか、余裕がある。
既視感と同じぐらい貧相なわたしの英語にも、ゆっくり、はっきり、話しかけてくれる。ほほ笑みと西日がまぶしくて涙が出る。
アジア人と見るや初音ミクの消失みたいな英語でたたみかけてくるニューヨークとは大違いである。
パロアルトの日本人にはスタンフォード大学の理系学部や、AppleやGoogleのエンジニアが多くいて、優秀な彼らが普通にアニメUT一枚とかで出歩いてくれてるおかげかもしれない。ありがとう……オタク……!(ド失礼)
「アメリカでパロアルトみたいな町は他のどこにも存在しないよ」
現地の人に言われた。
「というか、パロアルトに慣れると平和すぎて頭おかしくなるよ」
怖い。
しかし、そんな町だからこそ、できることがある。
無人自動運転である。
アプリ・ヘッダー画像の出典ともにWaymo公式より
これこれッ……!
これに乗りとうてな……!
サンフランシスコではもう数千台が走っていて、値段もUberとほぼ変わらない。呼ぶっきゃねえやろがい。
5分後、ホテルの前にあらわれた車に、
「おわーッ!ほんまに誰も乗ってねえ!」
指さして叫んでしまった。
運転席が空っぽの不気味さたるや、幽霊タクシー。
どこに停めるんやろかと見守っていたら、
「縦列駐車……やと……!?」
車と車の隙間に、華麗な縦列駐車をキメられた。不気味さなんてこのテクひとつで消し飛んでお釣りがくる。
縦列駐車お祈り界隈(教習所で黄色いポールがミラーに見えたらハンドルを全切りするという儀式だけ教わったためにポールなど存在しない公道ではまるで役に立たず、祈りを捧げながらイチかバチかで縦列駐車をしている絶望的な人間)であるわたしは、すっかりWaymoに魅了された。
車の天井とヘッドランプ横に、ぐるんぐるん回転する黒い物体があった。
同行してくれた夫のみずきくんが、
「めっちゃすごい勢いで回ってる!これで車上荒らしとか鳥とかを弾き飛ばすんやろなあ、すごいなあ!」
と感心していたが、それはただの360度カメラであった。田舎者の方が物騒な発想することってあるんだな。
サンフランシスコで無人自動運転🚗感動してたら中指立てながら煽られた件🥹(続きはnoteエッセイ) pic.twitter.com/1Nnv0QBIzz
— 岸田奈美|Nami Kishida (@namikishida) February 20, 2026
アプリで本人確認をすると扉からニョイーンとドアノブが浮き出てきた。車内タブレットでボタンを押したら、おお、発進。
「うわうわうわっ、うわーっ」
なめらかな滑り出しにのけぞってしまったが、すぐにわかった。こりゃ、かなりの安全運転。
大きく、なめらかに、弧を描いて左折するハンドル。
体が少しも踏ん張らせない、やわらかなブレーキ。
イケメンのハンドルさばき。
見える。
空っぽの運転席に、ディーンフジオカが見える。
父が生前、
「ええか。男の本性は運転に出るんや」
と言っていた。
デートの時はかならず運転させて付き合いを考えろと言っていた父本人は、ほんの少しの渋滞でもイラつき、狭い路地を縫うように爆走しては物損事故を起こしまくる男だったのだが、あんたの本性はそれってことでいいのか。
父の言いつけを守るならば、わたしが一生を共にすべきは、この存在しないディーンフジオカだったのだ。いい男とは“虚無”の時代。
「……安全運転に似合わず、けっこう攻め攻めやん?」
隣に座る母が言った。
そう。このディーンフジオカ、超安全運転のくせに、車間距離を攻めがち。信号待ちで停止したらけっこう前の車との距離を詰めていくのだ。カメラとコンピュータでしっかり計算しているので、危険はないという判断なんだろう。
攻める時は攻めるっていうのも、ギャップがあっていいじゃんね?
「渋滞とかこれで減るんちゃうか」
急ブレーキも踏まないし、一定の速度で走るし。人間味丸出しで運転するよりよっぽど秩序に忠実だと思った。
Waymoを褒めちぎっていた、そんな時だった。
「中指立てられとるーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」
助手席のみずきくんが絶叫した。
え?
隣の車の窓から、手が見えた。
それはそれはキレイなF◯ck youファッキューだった。
「いやいや……ウチらに向けてへんやろ?」
眺めていると、一度、手が引っ込んだ。
サングラスをかけたじいさんが、顔を出した。
ご丁寧に二度目の中指を見せつけられた。
そそり立つ中指。実際に立ててみるとわかるが、あれは中指の付け根に相当な筋肉がないとうまくできない。鍛え上げられたそそり立つ中指が、我々に贈られていた。
なぜ!?
中指と並走する異常事態になった。
自動運転をライバル視するタクシー運転手か?
いや、じいさんは普通の車だぞ。
ってことは、ただのアジア人ヘイトか?
いや、シェードガラスでこっちの顔は見えないぞ。
なぜなの!?
じいさんは無言で並走してくる。信号に引っかかっても、わざわざわたしたちの車を待っている。
煽られている。
自動運転を煽って事故った場合は、どういう責任になるのだろうか。
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