【キナリ★マガジン更新】楽しさをミルフィーユのように重ねはじめたらもう止まらない

 

〜これまでの冒険〜

嫁いだお寺で、念願のビンゴ士として暗躍が叶ったはずのわたし。5,000円の低予算で40人分の景品を集めるために奮闘していたが、最後の最後で、一撃2万円オーバーの千本引き機構を購入してしまいーーーー?

赤字の自腹を派手に決めたので、今年はもう、楽しげな方向に突き抜けよう。田舎の農村に突如として現れたビンゴ実験場として。

きっぷ制度を導入


子どもを飽きさせないために、ビンゴ+千本引きで、エンターテイメントをふたつ重ねた。こうなると、文章も演出も、すべてをミルフィーユのようにどんどん重ね倒したくなるのがわたし。

「自分が行動を起こせば、環境を変えられる」

……という、いわゆるコントロール感を持っている人は、幸せを感じやすいという話がある。

宝くじも売り場のおばちゃんからランダムで渡されるより、いくつかの束から選んだほうが当たる!気がする!(たぶんそういう話ではない)

ならば、ビンゴカードも選んでもらおう。

ビンゴカードを陳列しているこの棚は、わたしがかつて、下駄箱×傘立ての擬人化同人誌を売りさばいていた時に手に入れた逸品。

3列×3列で即ビンゴ!が叶う「ちょことビンゴカード」なるものがモノタロウに売ってたので、小さい子向けに導入をしてみた。

……。

「なんか、ただ配るんじゃなくて、ひきかえ券もほしくなってきたな……?」

ひきかえ券。
甘美な響きである。

わたしが幼少期に全身全霊を注ぎ込んだマンションの祭りでは、開催一ヶ月前に、各家庭にひきかえ券が配られた。かき氷やスーパーボールすくいと交換できるのだが、あれを眺めて過ごす夏の日々の、待ち遠しさったら……!

お札をまだ握らせてもらえないシャバい小娘にとって、あの『ひきかえ券』の手触りが、資本主義社会というウォータースライダーへの入口だった。

作ろう。

ハガキサイズの画用紙に『ビンゴカードひきかえ券』と印刷して、ハンコでお地蔵さんを一体ずつ手押しした。

夜中の1時に。

紙を割く物音に起きてきた夫が「なんでわざわざ……仕事を増やす……!?」と困惑しながら、

手伝ってくれた。

「これ、わざわざビンゴカードとひきかえる券なん?」

「せや」

「紙を紙に交換するだけ?」

「……せや」

「こんなに苦労しても、一瞬しか喜ばへんくない?」

深夜1時のド正論が、脳天に突き刺さる。そうだ。券はいっぱいあってこそ喜びになる。一万円札を一枚もらうより、千円札を十枚もらったほうが、嬉しいですからね。なんぼあってもええですもんね。

よし、チケットを増やそう。

ということはゲームも増やそう


翌日、大阪で仕事が終わったついで、松屋町によった。母の故郷のすぐそば、町ごとおもちゃ問屋というユートピアである。

祖父がまだかろうじて生きていた頃、額の血管を高血圧でブチギレさせながら松屋町までチャリをこぎこぎ、ド紫色に染まった目で、わたしにおもちゃを選んでくれた。

「子ども向けの屋台で使えそうなものないですかね……?」

問屋のご主人に聞くと、

「旬が過ぎたやつでよけりゃ、格安でええから持ってき」

ビニールヨーヨー50個、激安でまとめ買いできた。

仮面ライダーゼロワンは2019年、ドキドキ!プリキュアにいたっては2013年の代物である。先祖返りにも程がある。

「これ……喜んでくれますかね……?」

「お姉ちゃん、屋台って朝やるん?」

「夜です」

「ほな大丈夫や。子どもは夜に出かけられるだけでごっつ喜ぶから、情緒おかしなってる状態で、水にぷかぷか浮かんどるキャラもんはなんでも大喜びや」

子どもへの解像度が高いのか雑なのかわからない。さすがの老舗おもちゃ問屋、説得力だけはある。

説得力の妙で、キャラクターすくいも買ってしまった。まとめ買いにまとめ買いをぶつけると、さらに値引いてくれた。大量消費社会のユートピア。

しかし、やはり安さには理由がある。

笑顔のチコちゃんと激怒のチコちゃんが大半を占めとるがな。実に、人形の半分がチコちゃんである。夜のテンションだけで、本当にごまかせるのだろうか。

「すくい系はな、ポイも買ってもらわなあかんにゃけど」

経費がさらに。

「4号、5号、6号。どれがええ?」

「えっ!なんですかそれ!」

ポイに張ってる和紙の強度が違うらしい。お祭りの出店で使われるのは6号で、すぐやぶれる。5号は金魚すくいの全国大会で使われる良心的な厚さで、4号は幼児でもやぶれない強度を誇る。

知らなかった。

「えっと、じゃあ大人用は5号で、子ども用は4号にします!」

お寺の行事だから、たくさんの人に楽しんでほしいし。

のちにこの楽観的な判断が大仇〜おおあだ〜となり、イキり男児たちから一瞬で乱獲され、阿鼻叫喚に陥ることをわたしはまだ知らない。

「いっぱい買ってくれたから、よかったら、うちわも持っていきな」

ラッキー!ゲームをしない大人には、おまけで配ろう。しかしやけに古いものも混じっている。一体、いつの誰が使っていたうちわなんだ……。

なんか微妙な枚数の、色あせたSMAPもいるし……。



なんやかんやとチリが積もるように経費もかさみ、赤字は3万円に達した。義母さんが、

「さすがに申し訳ないわ……うちから払うで……」

と申し出てくれたが、

「だいじょうぶです!わたしのサイン会で使うやつなんで!」

で、押し切った。

天然の義母さんが「なんやあ、そうかいな」とホッとしていたが、これでわたしは今後のサイン会で、千本引きをつくり、ビニールヨーヨーを浮かべ、SMAPを渡すしかなくなった。文学の対極すぎる商売。


当日の朝。

お寺の本堂にて、いざ、準備。

千本引きは職人芸だった


力仕事が多発するため、弟が手助けしてくれた。しかし巨体だからといって力があるわけではないため、組み立てはたっぷり1時間かかった。

千本引きはその名の通り、大量のヒモにひたすら景品を吊っていかねばならないのだが……これ、めちゃくちゃ難しい。


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