花を飾るだけのベルトコンベアになったら、生活がいい感じにほどけた
緑に囲まれる生活って、いいよね……!?
うちは『&Premium』を定期購読しているという事実だけに、おしゃれ自尊心のすべてを託している家庭なのだが『&Premium』で紹介される部屋は、かならず緑に囲まれている。
そうなりたい。
ところがどっこい!
拙者、
植物界に属するもの、すべて枯らす侍と申す!
IKEAの排出口で待ち構える安い観葉植物を、買っては枯らし、買っては枯らし。指示どおりちゃんと育てているのに、どういうわけか枯れまくる。
とうとう、植木鉢を手に取るたび、夫が悲しそうな目をするようになった。
「もうやめたげて……」
道に落ちた雀を拾うような手つきで、植木鉢をわたしから取りあげる。
わしゃ、村を襲う怪物か何かか?
強引に買い続けていたら、ある朝、夫が観葉植物の前で立ち尽くしているのを発見した。ブリキのジョウロを持ちながら「また枯れた……」と泣いていた。さすがに身内をBUMP OF CHICKENの『ハルジオン』にしてしまったのは後味が悪い。
せめて、サボテンなら長生きするのではと思った。
しかし、わたしのトラブル引き寄せ体質が50年に1度の大漏水を引き起こしてし、汚水を浴びたサボテンは根本から折れた。
砂漠より過酷な環境、それがわたしの家。
『&Premium』が全力で遠ざかっていく。
わたしにはもう、無理なのかもしれない。
いや、待て!まだ手を伸ばせ!
『&Premium』の女神には前髪しかないのだ!
……緑はだめでも、花を飾るぐらいならいけるのでは?
花ならもともと、もって数日だし。短期超集中で、調子のいい時期だけお世話すればいい。
喜び勇んで近所を徘徊したが、めぼしい花屋がないことに気がついた。
唯一、朝から高齢者で大賑わいのホームセンターがあった。店先に並んだ、いろんな花を見ていた。ひとそれぞれ好みはあるけど、どれもみんな……
枯れてるね。
えっ、売り物でこんなに枯れてること、ある?
この中で誰が一番だなんて争うこともしないどころか、もはや争える体をしていない。この中で誰が生き残れるかの殺伐とした戦いである。
花を買える店がないので諦めていたら、この秋、
「お花の定期便をやってみませんか?」
と、ブルーミーさんから提案してもらった。
※本記事は、お花の定期便サービス「ブルーミー」さんの提供でお届けします(#PR)
「ポストに届くお花を受け取るだけで、かんたんです。ドタバタな日常も全力で楽しまれている岸田さんの、ホッと一息つけるお手伝いができたら嬉しいなと思っていて……」
渡りに船を越えてダイヤモンドプリンス号な話だった。飛びつくしかない。
以下、花と暮らしはじめた岸田奈美の、わりと正直な日記をお送りします。最後まで読んでくれた人だけがたどり着ける、特別なお知らせもあります。
目次
「お花の定期便をやってみませんか?」
1週目 うれしくなっちゃう矢文の知らせ
2週目 よく見ることが、花と暮らすコツ
3週目 花瓶の詫び状
4週目 どんなもんにも活けたらええねん
5週目 弁慶の立ち往生ガーデンをつくる
6週目 食卓を彩ると、にわかに何か起きる気がする
花が毎週届く生活をしてみた正直な感想
1週目 うれしくなっちゃう矢文の知らせ
昼ご飯を作るのが猛烈に面倒くさくなって、ダラダラとたこ焼きを買いに行ったら。
ポストに、何かが突き刺さっていた。
は……果たし状……?
決闘もしくは生贄に選ばれたことを知らせる形式だろ。矢文でしか見たことないよ。びっくりした。
これが、花だ。
花が届いたんだ。
にわかに嬉しくなり、ホクホク顔でエレベーターに乗ると、先に乗っていた小学生の二人組が、
「なーんかたこ焼きの匂いせーへん?」
と振り返った。
わたしは花が届いたテンションが有り余って、
「せやで!さっき買うてきてん!ええやろ!?」
デカめの声で言うと、小学生たちは無言で顔を見合わせ、扉が開くなり一目散に走り去った。
悲しかった。
ぐちゃぐちゃな机の上で、ぼそぼそ食べながら落ち込んでいたが、おもむろに花を飾るだけで悲壮感がわずかに和らぐ。
なんだか、ていねいな暮らしに見えてきた。怠惰で元気なたこ焼きおばさん!の怪奇に成り果てても、花があるだけで……なんか……いいぞ……。
コンビニのバイトから帰ってきた夫に見せたら、
「高さのバランスをそろえたら、もっとよくなるかも!」
た、高さ?
花に高さなどという発想はなかった。束の輪ゴムをほどいてみて、高さをバラバラにしてみると、本当にグッといい感じになった。
もしかして、これが、噂に聞いた“活ける”って行為?
「きみ、なんでそんなん知ってるん?」
「おれは毎日のように仏花を見てるから」
夫は僧侶なので。確かに仏壇に供えられている花は、けっこう高さが洗練されているような気がする。
次の日の夜、とつぜん友人が泊まりに来て、
酒瓶と菓子をしこたま食らい尽くす会が勃発したが、どれだけ部屋が片づいていなくても、中央の花が「うちはそういう自然派な感じなんで」を演出してくれた。
かくしてわたしは、遠い楽園だった花界に、土足で足を踏み入れることができた。
2週目 よく見ることが、花と暮らすコツ
またポストに花が突き刺さっていた。いつか見慣れるのだろうか。そして、梱包材の裏に、花の栄養剤がついていたことに気づいた。
一週目は指定されたキリトリ線から開けなかったから、見逃してゴミに捨ててしまった。裏口入学はやはりいけない。
注意深く見たら、なんか、紙も入ってた。
えっ、活け方のコツ、ここに書いとるやないか。
落ち着け。よく見ろ。
わたしが植物を枯らす原因が、だんだん明白になってきたような気がする。水をやるとか、話しかけるとかの次元ではなく、まず、よく見ろ。
高さを変えると、やっぱりいい感じだ。
さらに、想定外なことが起きた。
先週の花が、まだ、生きてる……!
なんで?
花って一週間も保たないんじゃなかったの?
生命力に“お得さ”を感じるという、いいのか悪いのかわからない感情が生まれた。
わたしは原稿の締め切りに追われて、だんだん調子が悪くなってくると、頭の中と机の上がたいへんなことになってくる。しかし視界に花があると、ギリギリ、丁寧な生活を保てているような錯覚を抱く。
思い込みは大切。
たまにリビングで仕事をするようになった。
3週目 花瓶の詫び状
夫としょうもないことでケンカした。
花があってもケンカするのである。
今週は念願だった『新婚さんいらっしゃい!』の収録が控えているというのに、これはもうカイヤvs川崎麻世みたいな感じで強行突破するしかないのだろうか。
しかも仲直りの暇なく、すぐ東京へ向かわねばならない。仕事で三日は帰れない。ケンカの放置は、破滅のロード・オブ・ザ・リングだ。
こんな朝にも、花は届く。
わたしだけ早めに起きて、謝りの手紙を書いた。
花瓶の下にそっと挟んだ。
あとで夫が起きてきたら、きっと、気づくだろう。新しい花は目立つ。
新幹線に乗っている間に夫から手紙の返信が届いて、仲直りできた。粛々と謝罪を交換したあと、花の話題になった。
『この赤い花、なんていうの』
『ケイトウだって』
『脳みそみたいやね』
花が脳みそにしか見えなくなる呪いにかかってしまったが、収録はうまくいった。
4週目 どんなもんにも活けたらええねん
花が思ったより咲き続けてくれるので、新しい花が届くたび、花瓶が足りなくなってきた。家が新装開店したんかってぐらい、賑やかになって嬉しいけども、どうしたもんか。
夫はがらくたを集めるのが趣味で、部屋に使い古しのガラスびんや、お菓子のカンカンをごっそり隠し持っている。何の役に立つねんと思っていたが、そこからひとつ譲ってもらった。
逆にこなれ感、出てる!
そういえば『&Premium』のバックナンバーにも、おしゃれ玄人は使えるものをすべて花瓶に!という記事が書かれていた。わあああっと声が出た。
あんなに遠く果てしなかった『&Premium』の世界に、
わたしの指先ひとつが届こうとしている。
こうなると、なんでも花瓶に見えてくる。アンティークのマグカップ、ビーカーなど、あらゆるものを試し、家のあちこちに小分けにして飾りはじめた。
5週目 弁慶の立ち往生ガーデンをつくる
それにしても、えらいこっちゃ。
なんか、四週間、咲き続けてる花がある。
何本か枯れる花もあるし、ドリフみたいに頭からガクッと落ちる花もあるんだけど、特定の花だけずっときれいなまま居残り続けている。
どうして?
怖いんだけど!
おそるおそる、花を触ったら、カサッと音がした。あっ、なるほど、きれいに水分が抜けて、勝手にドライフラワー化したんだわ。そんな偶然ってあるんだ。
しぶとく生き残り続けたやつらだけを選抜し、ひとつの花瓶に集めていったら、なんていうか、不死の軍団ができあがった。
これを弁慶の立ち往生ガーデンと称し、我が家では縁起物として拝むことにした。
6週目 食卓を彩ると、にわかに何か起きる気がする
今週はハロウィン限定の花が届いた。
「この水玉模様の葉っぱ、モデルルームでよく見るやつ!」
大声で夫に言ったら、ポカーンとされた。えっ、モデルルームの恐ろしすぎるほど洗練された部屋に、よく置かれてるのでお馴染みの植物ですよね?
何度説明しても全然伝わらなかった。人には人の、薄らぼんやりした例え話がある。
改まって『ハロウィン』と言われりゃ、なんとなく気合いの入ってしまった食卓(親の仇よりぶ厚いトンテキ)に立派なバラがあると、プロポーズのひとつでもされそうな気配になる。だがしかし、わたしたちはすでに結婚しているので、別に何も始まらない。
花が毎週届く生活をしてみた正直な感想
なんというか、とてもラクだった。
花が定期的に届く前は、植物を選ぶことに、なんだか言葉にできないしんどさを感じていたことに気がついた。
家の中に癒やしはあってほしいんだけど、じゃあどれを持って帰ろうかしらと店で選びはじめると「これは長持ちしないのかな……」「色合い的にどうなんだろう……」など、考えることが増える。選ぶことは責任の始まりで、そうすると、枯らしてしまった時のショックもすごい。
疲れをとりたくて植物を育てたはずが、育てているうちに疲れていた。
だから、
「くっ……果し状みたいな花が今日も届いてしまった……」
ぐらいの自動っぷりで、宇多田ヒカルの『Automatic』を歌いながらベルトコンベアのように右から左へ花瓶にブッ刺し、気づいたらなんか知らんが、生活に花が割り込んでいるという無責任感が、わたしのような人間にはちょうどよかった。
そして、花を活けていくうちに、最初はただただなんとかしている感じだったけど、ちょっとずつこなれてくると、楽しくなってくる。
「わー、でっかいバラ!よし、きみが引き立つように高さをつけよう……!」
と、考えながら手を動かして、思い描いた見た目になる達成感がすごい。家族に褒められるとうれしい。届いた箱を開ける前のワクワクが、飽きるどころか増える一方だ。
植物と暮らすことが、一生懸命がんばるんじゃなく、息を吸うように馴染んでいった。
理由がわからないので再現性ゼロだが、何本かはものすごく長生きしてくれて、思わぬラッキーも味わえてるし。弁慶の立ち往生ガーデンも充実していく一方だし。
今回は使わなかったけど、花が届く週が不在のときは、
『誰かに贈る』
というサービスも使えるらしい。実家の母がいつも、仏壇の父にせっせと花を飾っているので、贈ってみたいなと思った。花の横流しである。
かつて思い描いていた花のある暮らしとはかなり違ったけれども。自分なりに花と付き合っていく方法を手に入れることができた。
届いては、飾って、
届いては、飾って……。
繰り返すうちにいつの間にか、生活がほどける!
&Premiumの楽園に手が届く!
そんなわたしのような体験を即シュッと始められるよう、ブルーミーさんが特別キャンペーンを作ってくださいまして……
★ 無料で『花瓶』をプレゼント!(どんなデザインが届くかはお楽しみ、すぐ飾れるので準備もいらない!)
★ さらに、初回のお花のお届けも無料!
岸田奈美のエッセイを読んでくれて、ここへたどりついた人限定の特典ページだそうで、この機会にレッツ仲間入りを!
わたしと一緒に、花を飾るベルトコンベアになりましょう!
ブルーミーさん、こんなわたしを応援してくれて、ありがとうございました。
