長女は荷が重いので、大きなカバンがいる(イ・スラ×岸田奈美)1/8

 

韓国人の作家、イ・スラ。

借金を返し、家族を養うため、
インターネットで文章を売る彼女に、
わたしは並々ならぬ親しみを抱きました。

「生き別れの双子か……!?」

どうしても友だちになりたくて、
わたしは韓国まで行って、
打ち明け話をしてきました。

▼会いに行くまでのこと

全8回にわけて、noteで公開します。

イ・スラ プロフィール
1992年、韓国・ソウル生まれ。26歳で学資ローン250万円を返済するために毎日1本、メールマガジンを書いて送る「日刊イ・スラ」を開始。たちまち反響を呼び、半年分の連載をまとめた本はベストセラーとなる。2023年には45万人の読者が選ぶ「韓国文学の未来を担う若手作家」第1位に選出。エッセイ、小説、マンガ、歌などジャンルを越えて創作を続け、自身の家族をモデルにした小説「29歳、今日からわたしが家長です」はドラマ化が決定。毎朝の日課は逆立ち。(→ Instagram

1.長女は荷が重いので、大きなカバンがいる


岸田
おわああああー!

スラ
わーっ!

(しばし叫びながら、抱き合うふたり)

岸田
ああー!
韓国まで来てよかった!

スラ
えへへ。
おいしいコーヒーとケーキをごちそうさせてください!

岸田
えーっ、えーっ!?
いいんですか?

(レジでケーキをみっつも注文してから)

岸田
ここ、バリアフリーで、天井も高くて、話しやすくて。
見つけるの大変じゃなかったです?
※この日は車いすの母も一緒に韓国へ来ました。

スラ
楽しかったですよ。

岸田
送ってもらったメールがね、すごくて。
わたしが韓国まで会いに行くって言ったら、
「嬉しさのあまり、わたしはさっそく、
カフェの下見に行ってまいりました」
って。

スラ
うふふ。

岸田
メールの天才ですよ。
スラさんの姿が目に浮かぶメールだ。

スラ
会いたいって言ってくれた日から、
とっても楽しみにしてました!

岸田
わたしもです。

スラ
送ってもらった翻訳エッセイ、
おもしろかったですよ。

岸田
うれしい。
変じゃなかったですか?
全部は翻訳が間に合わなくて、
AIに訳してもらったのもあったんで。

スラ
あはは。
原文には劣るかもしれないけど、
言語の壁を個性が貫いてきました。

岸田
よかった……。

スラ
あっ、ケーキができましたね。

(取りに行ってから)

わたしの紅茶と、
奈美さんのコーヒー。どうぞ。

岸田
カムサハムニダ(ありがとう)〜。
スラさんの文章に出会ってから、
自分が韓国語を話せないってことが、
むちゃくちゃ悔しくて……。

スラ
わたしも思いました。
奈美さんの文章は、日本語で読みたかった。

岸田
うわっ、本当?

スラ
わたしたち、似てるなあって。

岸田
生き方がね。

スラ
そうそう。

岸田
生活するために、
スラさんはメルマガで書いて。
わたしはブログで書いて。

スラ
あと、ふたりとも長女!

岸田
そうだった!
スラさんは弟さんがいる?

スラ
はい。

岸田
一緒ですねえ……。
(スラさんの弟の写真を長めながら)

スラ
長女はやっぱり、いろいろと荷が重いので。
かばんも、ほら、このとおり。

(A3サイズの紙やパソコンも余裕で入る、大きなトートバッグを見せて)

岸田
ごっつデカい!

スラ
長女の奈美さんに
おそろいでプレゼントしたくて。
受け取ってもらえますか?

岸田
えっ!えっ!
うわーっ、うれしい!

スラ
なにかと荷物、多いでしょ?

岸田
そうなんですよ。
長女だから!

スラ
これ、手紙も……

岸田
お手紙!?
……日本語だ!きれいな字!

スラ
一緒に読んでいいですか?
間違ってるところがあるかもだから。

岸田
日本語できるんですか?

スラ
ぜんぜんできません。あはは。

岸田
めっちゃうまいですよ。
やーん、うれしすぎる。
撮って!撮って!

スラ
(カメラマンを見て)
このお方が。

岸田
はい、夫です。さいきん結婚しました。

スラ
わあ!

岸田
会いたすぎて突然の出張になったんで、
カメラマンを探せなくて。
夫に撮ってもらおうと。

スラ
はい、はい。

岸田
でもごめんなさい、彼はプロじゃないんです。
本業は仏教の僧侶なので。

スラ
ええっ!?
……ど、どうやって僧侶と出会うんですか?

岸田
友だちの友だちでした。
ふつうにそのへんに生息してるんだ……って、
わたしもびっくりしました。

スラ
あはは。

岸田
書くことに困ったら
「仏教のおもろい例え話とかちょうだい!」
って、むりやり聞き出してます。

スラ
わたしの夫も敬虔なクリスチャンで。

岸田
あの素敵な彼が!?
Instagramで見ました!

スラ
ありがとう。
でも、わたしはクリスチャンじゃなくて。
わたしはわたしらしくやってますよ。

岸田
そんなところも、わたしたち似てますね。

スラ
ただ、わたしの人生より
奈美さんの人生の方が、
難易度が高いような……。

岸田
そうですか?
スラさんの方が多彩で、
やることなすこと勢いがあって、
難しいこといっぱいやってません?

スラ
そうですか?

岸田
エッセイも小説も脚本も書いて、
歌もうたって、文章教室も開いて。
そんなん、わたしもやってみたいです。
……できないけど。

スラ
あはは。
どうしてわたしにインタビューを?
わざわざ韓国にまで!

岸田
衝撃がすごすぎて。
似た境遇と生き方の人を
わたし以外に初めて見たんですよ。
いや、似てるどころか、
わたしが「こうなりたい」って思うことを
先にぜんぶやってらっしゃって。

スラ
ええ!?

岸田
しかもめっちゃ楽しそうで。
わたしと一歳しか違わないし。

スラ
うん、うん。

岸田
すごい!と同時に、こうなりたい!って
思ったからですね。飛んできちゃいました。

スラ
まあ、あの、
すごく現実的な作家ですし。
だから興味を持ってくれたのかな?

岸田
現実的?

スラ
なんて言えばいいんだろう。
生計を立てるために作家をはじめたので。

岸田
ああ!
わたしもです!

スラ
わたしたちはどっちも、
インターネットで文章を売ってますよね。
奈美さんはnoteでしたっけ。

岸田
はい。

スラ
初めて文章を売りはじめたの、
まわりの反応って覚えてますか?

わたしたちが会話に夢中になれているのは、真ん中にいる通訳のイ・ジンヒョンさんのおかげです

つづき

▼イ・スラのメールマガジンをまとめた本

 
コルク