【毎日更新】人の話を聞けないわたしが対談はじめたら、王者が超高速で分析してくれた(令和ロマンくるま×岸田奈美)
「あなたは、そろそろ、対談のゲストじゃなくて、ホストをやらなきゃいけなくなると思うんですよ。“奈美の部屋”をね」
そう言ったのは、糸井重里さんだった。
2024年、前橋BOOKFESの公開対談でのこと。その場にたくさんのお客さんもいたので「いやです……」と逃げ回って終わった。
いやいや!対談なんて、まだやらなくていいでしょ〜!
と、思ってた。
その後、ラジオプロデューサー・石井玄さんのpodcastに呼ばれて話しに行くまでは。
終了後、石井さんが衝撃の一言を放った。
「岸田さん、会話のキャッチボールできてないです」
ええーっ!?
「そんなバカな!ちゃんとボール投げ返してますよ!」
「いえ、ぼくのボールを奪って、そのまま公園の端っこまでオリャーーーーーーッて走り去って、ジャグリングしながら遊んでるのを見せつけているのが岸田さんです」
それは、もう、バケモンじゃないですか?
気絶するほどショックなわたしとは裏腹に、このpodcastはむちゃくちゃ反響があった。うちの母は涙が出るほど笑っていた。
親まで……!
っていうか、わたし、昔からこうだった。
2019年の何気なく投稿したツイートが証明している。
人の話を聞けなさすぎて、男まで失ってるじゃねえか。
昔からわたしは、人の話を聞くことが圧倒的に苦手だ!
人とたっぷり会話したあと、
「ちゃんと話を聞け!」
「そんなことは言ってない!」
「一体なにをどう聞けば、そういう話だと思うんだ!?」
などと、よく言われる。
どうして!?
恐ろしいのが、わたしはだいぶ、真剣に話を聞いていることである。なんなら、全力で盛り上げて、うまくやったとすら思っている。
しかも、会話が終わったら「楽しかった」「悲しかった」という感想以外のディテール(細部)をほぼ忘れているので、なんとなくで記憶を組み立て、また別の人との会話で派手に放流している。ブラックバスのように。
印象派……!
会話が印象派すぎる。
冷や汗かいてきた。
戦況は思ったよりも最悪である。これは早々にどうにかしなければ、一生、対談どころか会話もできない人間になってしまう。いやだ。
しかし、会話って、難しい。
聞いて、話すこと。
ただその繰り返しだ。10万年前から人類は当たり前に会話をしてきた。しかし、当たり前にやりすぎていて、わからない。会話の教科書をくれよ。
偉大な落語家が
「本当にすごい芸ってのはなァ、おれにもできるかもって思わせる芸なんだよ」
と言っていたが、わたしにとって会話はまさにすごい芸だ。わたしにもできるかもって思いながらマネしてるが、ずっと、致命的にズレている。
今までは自分のエピソードを話す場所には恵まれて、というか恵まれすぎて、もう話すことも尽きてきた。
これからもずっと書いて生きていくなら、他人の話を引き出して、そこにわたしが融合させて、新しい物語をつくっていきたい。
わかってる!
わかっちゃいるけど!
人の話をうまく聞くって、一体、どういうことなんだ?
これはもう、わたしひとりの独学では、だめだ。
ということで、修行の部屋をつくった。
『岸田奈美のえんがわ』という対談イベントを企画して、
令和ロマンのくるまさんをお招きした。
しゃべくり(漫才)の日本一を決める『M-1グランプリ』で前人未到の二連覇を成し遂げた王者。日本一しゃべくりがうまい人に教わろう。
いま考れば初手から“王”に乞うなど恐れ多すぎるのだが、この時のわたしはバグっていた。そしてなぜか王はお引き受けしてくださった。慈悲深え。ありがてえ。
くるまさんと2時間近く話させてもらったことで、
わたしは「聞くこと」に巨大な勘違いをしたまま、生きていたことが判明した。
みんなが持ってる感覚と違いすぎた。違いすぎることに、びっくりした。そ
りゃ、誰とも噛み合わんわ。
ああ、もっと早く知りたかった!
あまりにも天地がひっくり返ったので「対談で人の話をちゃんと聞く方法」の気づきとアドバイスを書いて残します。100万%、わたしのためです。もう……絶対に……忘れとうない……!
ちなみに、くるまさんは帰り際、
「いやあー、すっごいな……この(致命的な)レベルの人が対談を仕事にしようとしてるんだもんな……イチから勉強するんだもんな……おもしれえな……」
と、永遠に独り言を繰り返してらっしゃいました。
ええ、そんなレベルの人が書いています。宇宙人の地球日記だと思ってください。
●『岸田奈美のえんがわ × 令和ロマン くるま』は、2025年8月31日まで配信チケットの購入ができます。→ 視聴・購入はこちら
●イベント終了後の反省会podcast(ゲスト:くるま、糸井重里)は『岸田奈美のおばんそわ』で無料配信中です。→視聴はこちら
noteとあわせて視聴すると、より一層、楽しんでいただけるかと思います!
0.結局、どんな対談になったのか
まず、打ち合わせの場でスタッフが、
「岸田さんは対談がむちゃくちゃ苦手で、うまくなりたいと思ってるらしいので、どうぞよろしくお願いします」
と、身もフタもないことを、くるまさんに伝えてくれた。
「あ、そうですか。じゃあ修行モードでいきましょう」
話が早すぎるよ。さっきまで半袖姿だったくるまさんが、突然、黒いジャケットをバサッと羽織った。
「暑くないんですか?」
「いや、修行なんで。圧かけていきますんで」
だから、話が早すぎるよ。
でも、この時のわたしには、まだ根拠なき自信があった。これが印象派感情論者の悪癖である。
なんかうまくできそう!と思い込んじまうのだ。かつての失敗をすべてなかったことにし、ムチムチの万能感を垂れ流している。誰かシバいてくれ。
―――そして、対談が終わった。
終わったら、脇汗、すごいことになってた。
準備してきたはずの想定質問はすべてフッ飛び、会話の迷子になりながら、袋小路でソーラン節をエンドレスで踊っているような感覚だった。バカッ。
「びっくりした。告知写真では『歯が全見え』なのに、しゃべってる間、歯がまったく見えなかった」
と、くるまさんに言われた。
歯が前見せの告知写真
人間は自信を失えば失うほど、歯を見せなくなるらしい。知らなかった。今度から、自信のない人間を見分けるハウツーとしてご活用ください。
「はあ……はあ……!わたしの対談、いかがでしたか!?」
「途中で明らかに困ってるのに、仕切り直すこともなく、かと言って、ブン回すわけでもなく、岸田さんが岸田さんのサイズのまま突き進んでいったんで……あんまり修行にならなかったなって……」
「わかってたんなら、もっと早く言ってヨォ!!!!!!!」
「反省会しましょ」
ここで『岸田奈美のえんがわ』は第一回目にして、一時間の対談した直後に、一時間の反省会をするという、トンチキ対談イベントになった。
くるまさんも、そんなトンチキするのは初めてらしい。
この反省会が始まった途端、くるまさんのギアが明らかに二段階ぐらい上がって、神業じみた高速分析が披露されたので、お時間あれば配信とpodcastもご覧あれ。
次回「会話には中身があると信じすぎてたし、音で喋る人と文章で喋る人は違う」
明日20時更新!
※この連載は全5回ほど、完結まで毎日20時ごろ更新予定です。