【キナリ★マガジン更新】自分の時間は自分のものだから、知らん人たちと大皿を囲もう
北欧(フィンランド・デンマーク)を母と夫と旅行してきたので、めくるめくこぼれ話を。これで最後です。
目次
マリメッコ本社は日本人だらけ
自転車専用レーンを絶対に歩くんじゃない
デンマークのセブンイレブンは美しい(らしい)
自分の時間は自分のものだから
知らん人たちと大皿料理を囲む
旅の相棒になんでも雑に聞いてみる
マリメッコ本社は日本人だらけ
フィンランドといえば、マリメッコ本社。
……らしい。ほしいものもないので、行かなくてもよかったけど、母が「絶対に行きたい!食堂でごはん食べたい!」という。
はて。アンタ、そんなにマリやらメッコやら、好きやったかいな。
「テレビで見たし、ご近所さんたちも行ったって言うてた!」
昭和の時代から情報網が一切変わっていない。ためしてガッテンとみのもんたに絶大な信頼を寄せ続ける人である。
ヘルシンキ中央駅から20分ほど電車にゆられ、ヘルットニエミ駅へ。到着した瞬間、ただならぬ気配を感じた。
「この駅……日本人しか……いねえ……!」
時すでにマリメッコ本社のオープン5分前。全員が目をギラつかせ、おそろいの短い足をダバダバ動かし、一心不乱に歩いてる。っていうか走ってる。
やばい!このままだと抜かされる!
われわれは走った。
足音に気がついて、前にいた日本人夫婦も走った。後ろをつけている日本人マダムも走った。全員が全速力でマリメッコ本社を目指した。
———ジャパンレース、開幕!
途中、道が三つに別れた。運命の選択である。立ち止まっている暇などない。わたしたちは芝生を横切ることにした。
よっしゃ!ショートカットや!
出し抜いたのもつかの間、芝生はフィンランドの犬のおトイレワンダーランドになっていた。地雷のようなうんこを叫びながら避けたせいで、大幅な遅れをとってしまった。
ハァッ……ハァッ……。
なぜわれわれは……フィンランドに来てまでこんなことを……?
ついた。
さっきより倍の倍はいようかという数の日本人たちが、息も切れ切れに集まっていた。急に増えるんじゃない。ワカメか。
『今日は調理場メンテナンスのため、食堂はお休みです』
休みなんかい!
みんなも食堂がお目当てだったようで、がっかりムード。
オシャレな社員たちが、IDカードをかざして颯爽と出勤していた。自分の勤め先に、ある日から急に大量の日本人が競歩で押し寄せてくる生活、怖くないのかな。
みんなで肩を落としながらショップに吸い込まれた。イトーヨーカドーぐらい親しみがあった。
せっかくなので、試着してみた。
かわいいんだけど、なんだろう、この全身からあふれ出る精神の不安定さは。こいつが家の奥から出てきたら、心配がギリで勝つ。
己(おのれ)のテンションと柄(がら)のテンションが、まるで合ってないのが怖い。
人体はそれぞれ、受け止められる陽気さの総量が決まっているのだ。
キリンはすごいな……全身キリン柄でも安定してるもんな……。
自転車専用レーンを絶対に歩くんじゃない
フィンランドやデンマークに住む北欧の人たちは、温厚で親切だ。人のことでいやな思いをすることは一度もなかった。
しかし!
その彼らが!
観光客であろうが高齢者であろうが、容赦なくブチギレる場面が存在する!
それは自転車専用レーンへの侵入である!
都市部のこれぐらい広い歩道にはかならず自転車専用レーンがあり、昼夜問わず、シュッとした自転車がビュンビュン走っている。
ここに歩行者が少しでも足を踏み入れようもんなら、
「どけ!どけーーーーーーーーっ!」
天王寺のオッサンよりもでかい声量と般若の声で、つばを撒き散らしながらキレる。モデルみたいにきれいなお姉さんからもキレられ、わたしはおしっこをちびりそうになった。
旅行中のあるタイミングで、母がうっかり、このレーンを走行してしまった。
「あかん!殺されるぞ!」
ハッとしたが、時すでに遅し。前方からは、ダンディ紳士が運転するマウンテンバイク。
数秒後に宙を舞う母まで完ぺきに想像した。
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