【キナリ★マガジン更新】お供えの根城を知ったサンタクロース
ついこないだまで、12月。長年の読者はおわかりでしょうか。わたしというサンタクロースがイキり散らかす季節です。
弟が暮らす福祉グループホームに、クリスマスケーキを寄付して3年。寄付らしからぬことを正直に打ち明けるけど、これがもう、地味に手がかかる!
ケーキを手に入れるのも激戦だし、グループホームの人手不足の関係でホールじゃなくピースだから予約できないし、配達してもらえない。
大変すぎて、配り終えたあと、いつも思う。
もう……やめよう……!
しかし、町にジングルベルが近づいてくると、
よし……やるか……!
重い腰を反射的にあげちゃうの、なに?
前世がサンタクロース?
「妊娠と同じや。あんなに痛い目は絶対にもう見たくないって一人目で思うはずやのに、いつの間にか忘れて二人目を産んでまう」
母が言うには、クリスマスは妊娠と同じ。
「今年は何個、いりますか?」
「えーっ!またいただけるんですか!?」
グループホームの管理人さんから、しみじみ喜ばれた。
「67個です!」
一昨年、46個。
昨年、57個。
今年、67個。
EXILEは7人→14人→19人なので、EXILEの加入ペースを抜いている。Xmas TRIBE。計算によれば50年後にはケーキ567個になるらしい。
83歳の老体に鞭打って、わたしは配れるのだろうか。ドラえもんの栗まんじゅう回を読んだ悪寒が久々に蘇った。
まあ、でも、地元に障害者を助けるグループホームが増えたのはいいことね。
また今年もシャトレーゼにイチかバチかで当日駆け込んで、ケーキを爆買いするのか……と思っていたら、
インターネットで新情報を掴んだ。
『シャトレーゼはホールケーキじゃなくても、予約できるらしい』
なんだって!?
調べてみたら、インターネット上でショートケーキの予約ができるようになっていた。大歓喜。これで当日、強制ケーキギャンブルでカイジしなくて済む。
さあ、ポチるか……。
手が止まった。
『ご予約は16個までです』
少ねえ〜〜〜ッ!
モニターに頭突きしそうになった。
でも、そうだよな。ご家庭のために作られたホームページなんだもん。
顔も見えないのにいきなりケーキを67個よこせといってくる相手は、交渉人ではなく侵略者である。シャトレーゼがモンゴル騎馬民族なら撃たれている。
ダメ元で、店舗に電話してみた。
べらぼうに忙しそうなマダムが出た。
「ああっ……ごめんなさい、クリスマス時期の予約はできないんです……」
「ですよねえ……」
落胆して、切ろうとした時だった。
「ーーーうちでは・・・・、ね」
元潜入捜査官に電話がつながりました?
「と、言いますと……?」
「店舗によっては、予約ができるところもあるんですよ」
「ほお……」
「でもインターネットには書いてなくて、ほかの店舗に直接、電話で聞いていただくしかないんです」
いったいどういう仕組みなのかはわからんが、ローカルルールが発動しているらしい。さすがシャトレーゼ。田舎のクソデカ国道沿いに、クソデカ駐車場とともに召喚される存在なだけある。魔術的な儀式。近いうちにテイルズ・オブ・シャトレーゼが発売されるはず。
しかし、困った。
わたしが住む関西圏だけでも、シャトレーゼは90店ある。片っぱしからいちいち電話をかけたら、何時間かかるかわからない。
沈黙。
「……ウチの店舗から近い順に、お電話をおかけいただくのが吉、かと」
元潜入捜査官様!
というかその慣れっぷりは、もうパチンコ屋の換金所のそれである。みなさんアチラの方に向かわれますがね。
言われたとおり、近い別店舗に電話をかけなおした。
「はい!67個のサンタショートのご予約ですね!承れます!」
ビンゴッ!
「残念ですが、このままではご注文できなくて……一ヶ月前までに直接、お店までご足労願えますか?」
電話をし、店舗で支払い、また店舗で受け取るルールだった。
三顧の礼?
礼を尽くすやつにしかケーキは売ってもらえない。
クリスマスは命がけ。
わたしの家からは一時間以上かかってしまうのが困った。でも、まあ、行くしかないかと諦めていたら、
「うち近いんで、行きます行きます!」
弟の送迎をしてくれている、グループホームのスタッフさんから助け舟が到来した。
「でもお子さんのお世話があるんじゃ」
「岸田さんはご存知ないかもしれませんが」
スタッフさんは声をひそめた。
「ここだけの話ーーーーシャトレーゼのプリン・ア・ラ・モードは絶品なんですよ」
この町には元潜入捜査官しかいないの?
「予約ついでに家族分、爆買いして参りますので、仔細問題ありません!」
シャトレーゼまわりの登場人物が、妙にドラマチックすぎる。これだけで一芝居できてしまう。洋菓子のシティハンターみてえな世界観
スタッフさんの協力で、予約と支払いも完了した。
一人で勝手におっ始めたイキり寄付も、3年も続けば、仲間が少しずつできてくるのである。泣きそうになった。50年後に567個配り回っているわたしは、軍勢と呼ばれる組織を立派に率いているのかもしれない。
クリスマス会、前日。
わたしと夫・みずきくんが取りに行った。
「ご予約の岸田さまですねえ、ふうっ、お待ちして、ふうっ、おりましたあ」
奥から小太りのおじちゃんシェフが、ひいひい言いながら出てきてくれた。どうにもこうにもお疲れさまです。
すっげえ。
給食当番でしか見たことないトレイだ。圧巻。
箱に詰めてもらう間にも、お店にはひっきりなしに客が訪れ、ケーキが飛ぶように売れていた。
「予約とはいえ、こんなにドカッと買っちゃって、売り切れたりませんかね?」
心配になってきたのでレジで聞くと、
「売り……切れ……?」
バイトのお姉さんが固まった。
「少々お待ちください」
隣のベテランバイトさんに駆け寄り、お姉さんが耳打ちした。
「売り切れ……?」
初めて水を知ったヘレン・ケラーはこんな顔をしていたのだろうと思う。
「店長。クリスマスケーキが売り切れたことって、ありましたっけ?」
とうとう、小太りのおじちゃんシェフまで、困惑のコソコソ話が伝わってしまった。彼もヘレン・ケラーと化した。
えっ、無限なの?
ケーキがどんどん繁殖してるの?
シロツメクサみたいな感じ?
怖いんだけど。
ところで、わたしが注文したショートケーキは昨年まで280円だったのが、345円まで値上がりしていた。仕方ない。苺が1パック1,000円をザラに越える時代である。ってか今、苺、誰が買えんねん!
苺って小さいとき、なんか食卓に2粒ぐらい、ポッと出るもんじゃなかった?
「まあ……食っとくか……」
って、野菜以上、おやつ未満なポジションだと思ってたのに。世知辛いよ。でもs貴重な苺の乗ったケーキを345円で分けてくれてありがとう。
他チェーン店だと700円以上するからね。
すごいね。
さあ、帰ろう。
「あれ?」
みずきくんの姿が見当たらなかった。
店の中に戻ると、焼き菓子コーナーで立ち尽くしていた。
なんかつぶやいている。
「おまえだったんか……」
夫がごんぎつねを撃った後の兵十みたいなこと、つぶやいている。
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