【キナリ★マガジン更新】二宮金次郎枠でモテる(ウズベキスタン新婚旅行)

 

「なんで新婚旅行先がウズベキスタンやねん?」の説明はこちら。

まさか世界遺産に泊まれるとは思わんかった。

オリエントスターヒヴァ

170年前に建てられたイスラム教のメドレセ(神学校)を改装したホテルだ。一泊15,000円はこの旅行でいちばん高級だったが、東大寺の大仏の横に布団を敷いて寝るようなもんなので実質タダである。

めっちゃ狭い!

もともと神学生が寝起きしていた小部屋に、むりやり二台もベッドを押し込んでいるのだが、シングルベッドですらない。

これ……見覚えがあるぞ……!
IKEAにしか売ってないはずの謎極小ベッドだ……!

寝返りを打てば即、落下。

「おれ、この感じがめっちゃ落ち着く……」

みずきくんは狭いところが大好きらしくご満悦だった。ウズベキスタンの文化の隙間にことごとくハマる、山善の商品みたいな男。

部屋ではWi-Fiも4Gも入らず、スマホが使いもんにならなかった。170年前の学生もさぞ苦労したことだろう。

部屋は暗いがドアを開けると、美しい中庭が広がる。朝も夜もずっと開けっ放しでいたいぐらい気持ちよかった。

メドレセはこれが定番の形らしく、

三つ並んだドアを見て「あー、これ順番に中を攻略していかないと先に進めないやつだな」と思ったり、

中庭のド真ん中の枯れ井戸を見て「はいはい、屋敷の中ボスをぜんぶ倒したら井戸から大ボスが出てくるやつね」と思ったりした。

平成ゲーム脳!


小学生の時にハマッたゲームキューブ『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』にジャックモキートの館というダンジョンがあり、あまりにも同じ光景なのだ。

4人プレイだったので、ワーワー叫びながら毎日遊び倒した友だちに写真の一枚でも送りたかったが、もう誰ひとり連絡先はわからない。

「どしたん?」

「いや、あんなに遊んでたはずの友だちもいつの間にか消息不明で、わたしゃ大人になってもうたなと……」

「え?そんなことある?おれは出会った人は全員友だちやし、誰ひとりとして連絡とれへんやつなんておらんけどな?同窓会とかないん?」

ポムじいさん「すまんがその石をしまってくれんか、わしには強すぎる」



古傷をえぐられて腹がへったので、レストランへ。

Terrassa Cafe & Restaurant

ヒヴァの食事代はウズベキスタンでもぶっちぎりで高いと聞いていたが、それでもメイン一皿1500円ぐらいで「安ゥい!」と思った。

ラグマンはトマトのスープに太めのうどんみたいな麺が入って、丸亀製麺で夏あたりに食ったっけなと存在しない記憶を呼び起こすぐらい口に馴染んだ。怖かった。

Tea House Bir Gumbaz

ファーストフードといえば揚げ饅頭のサモサ。

551の肉まんのと同じ味じゃねえか!

揚げたての生地はパリッ、中はジュワーッ。おいしすぎる。みずきくんと無言で見つめあい、無言でおかわり。

そしてお茶が無限に注がれていく。遊牧民は砂漠を越えてきた人たちに、お茶をふるまうのがおもてなしだそう。

以前、地政学にくわしい人に遊牧民の政治を聞いたら、

「いや、ほんとに、ずっとお茶を飲んでるんですよね。会議や討論をしてる感じに見えなくても、お茶を飲んで、おしゃべりして、気づいたらいろんなことがなんとなく決まってるというか」

的なことを言われたっけな。議題も決めずにダラダラと茶をしばいて、味方かどうかを雰囲気でじっくり判断する、みたいなこともあるのか。

「うちのお寺のまわりも、そういうのよう見るわあ」

みずきくんも言うには、日本の田舎にも似ているらしい。なんでもかんでも即決したがるブルドーザーのようなわたしは、いずれ追放されるだろう。

急に、背中をトントン叩かれた。

「ジャパニーズ?」

振り向くと、ウズベキスタン人の少女たちが集まっていた。

えっ、えっ、なんですのん!?


「ビューティフォー!ワーオ!」

おずおずとスマホを構えられた。

ビューティフォーって……それ……アタイのこと……?

よくわからんが「美人」を連呼されたら、自動的に有頂天になって映るしかない。

「センキューセンキュー!ビューティフォー!」

少女の目がうるうるしている。本当に感激してくれた。どんどん人が増えて、わたしも!わたしも!と列ができ、次々に写真を撮られた。

完全にアイドルである。

「ベリービューティフォー!」

いや、ハリウッド女優である。

いまだかつて、こんなにも美しい美しいとチヤホヤされたことがあっただろうか。このような撮影ラッシュはヒヴァ以外の各地でもずっと起こり続けた現象で、わたしはすっかり浮き足立ち、

「わたしの安住の地はウズベキスタンにあったんやわ!」

「えっ」

「これたぶん王族から求婚されるレベルやと思う!」

「えっ」

「傾国の美女として、第二の人生を送らせていただきます!」

心底、帰国したくないと思った。生きる場所なら愛されるほうへと流れていくのがわたしのモットーである。

後日、ウズベキスタンで働いていた人にこの話をしたら、

「ああ……日本はアジアの東の果てにある神秘の国っていうイメージなんですよ。日本人はみんな勤勉で真面目で礼儀の正しい人たちだと教わってるから、奇跡のようなスーパーレアキャラと一緒に写真を撮って、SNSに上げるのが彼女たちの最強のステイタスみたいですね」

まさかの二宮金次郎枠で人気だったの?


魔性の美貌でモテていたのではなく、薪を背負いながら本を読みそうだから、モテていただけだった。

この枠で傾国、いけるか……?

「うっふ〜ん!勤勉よ〜ん!5分前にタイムカード押すから貿易してえ〜ん!」

無理そう。

それにしても、ウズベキスタンでは子どもも大人も、ずっとスマホをいじっている。

土産物屋の番をしている子も、伝統工芸品を作っている子も。

ショート動画に狂っていた。どれだけ荘厳な500年前の城壁も遺跡も、全世界共通でスマホの快楽には敗北するのである。まあそうなるわな。

むき出しの世界遺産に向かって全力でサッカーボールを蹴り飛ばすという地元のガキンチョすぎる遊びも目撃した。思わず「うおおおおおおおお!?!?!?」と叫んでしまった。

世界遺産だと言われようとも、ずっと暮らしてきた人たちにとっては、ただの壁、ただの日常なんだな。

夜のヒヴァも圧巻だった。

土壁とタイルをライトアップしようと思いついた人は、誰だか知らんが、超エキセントリック発想で素晴らしい。やみくもに照らすのではなく、ちゃんと木や花も計算して植えられていて、オアシスの演出も忘れない。

隈研吾みたいな人間がヒヴァにもいるんだな。
ヒヴァ研吾。

だが正直に言えば、ヒヴァの2日目はやることがなかった。

遺跡や土産物屋はどれも似たり寄ったりで、しゃあないから城壁の上にでも登ってみるかとヒィヒィハァハァ階段を上がったら、

あと少しというところで不自然な岩壁が出現し、立ち往生した。無慈悲。「いわくだき」のような技を覚えてこなければ突破できないのか?

続々と岩壁トラップに引っかかり、呆然としている人々。その上の城壁を涼しい顔で散策している観光客もいて、見えてるのに行けない場所というゲームでも基本中の基本の洗礼を味わった。

まだレベルが足りない。

おもむろに城壁の外に出て、レストランでご飯を食べた。

KHIVA MOON RESTAURANT

城壁の中より値段は安く、量も多い。

おびただしい油で炒めているのに、グイグイかき込めてしまうプロフ。地方ごとに具材や盛り付けが違うらしくて、比べるのが楽しみ。

テラス席が居心地よくて、ボーッと2時間ぐらい過ごしてしまった。タプチャンという家具らしい。

「これうちの家の前に置きたいなあ……」

「近所の人がめっちゃ集まってきて、いい感じでゆったりして、くつろげるんやろな……」

「編み物やらお絵かきやら楽しみながらなあ……」

夢が広がりまくりんぐだが、地元でこういう場所はだいたい知らんおじさんに占拠され、おじさんホイホイになってしまうのが現実である。


夕方、ウルゲンチ駅からブハラ駅に向かう。5時間30分の夜行列車だ。

チケットは数日前にはもう完売するほどの人気路線だ。個室はほとんど観光客で埋まっていた。

四人用個室で、フランス人のバックパッカー新婚夫婦と相席になった。新婚同士で、なんと幸先の良い組み合わせだろう!

事前に読んだブログによれば、列車では同室の人と一緒にお菓子を分けあったり、ウノをしたり、温かい交流ができるようだった。これぞ旅の醍醐味。わたしなどウキウキで折り紙まで持ってきたほどだ。

ところが、フランス人の奥さんが猛烈にヒステリックな人だった。


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