【キナリ★マガジン更新】妊娠!万事!塞翁が馬ァ!
先に声を大にして言っておくと、わたしは今、めっちゃくちゃ元気です。
さっきもカレーをおかわりしたし、食後にボトル買いした柿の種を飲んでます。今朝からマンションの火災報知器がなぜか三回も誤作動しましたが、現金と柿の種を抱えて華麗に逃げました。
だから、これから書くことを読んでも心配しないでください。
悲しかったのは、たった何日かだけの話です。
これはわたしが妊娠して、知らんことばっかりがドドドと押し寄せてきて、流産してしまうまで二ヶ月ぐらいの話です。
そう、たった二ヶ月なのですよ!
初期の流産は7人に1人だそうで。よくあることなんですって。ただ、世界ではよくあることでも、人生ではぶっちぎりの驚愕だったわけで……。
井戸端にて「ちょっと聞いてえなあ」という感じで書くきます。読むタイプの相槌を、どうかひとつよろしくです。
長いこと、子どもがほしいとは思えなかった。
子どものころからずっと“仕事”があこがれだった。こんなにも楽しい仕事の時間を、赤子の世話で削られてなるものかと思った。それに、わたしが自由に身動き取れんようになったら、母や弟はどうなる!?大黒柱の使命感もあった。
でも、状況が変わってきた。
母は二度の死地を乗り越えたことで、ファンキーに開き直り、夢のひとり暮らしを謳歌し。弟も気に入ったグループホームで、大味なモノマネと一発ギャグを連発しながら生活し。
家族がなんとなく落ち着いてきた。
週末になると実家に集まるのだが、
「奈美ちゃんと良太が幸せそうなんを見ると、涙が出るねん。ほんまに楽しいことばっかりの子育てやった」
ちょちょ切れながら、母がよく言うのだ。
びっくりした。楽しいことばっかりなわけがない。でも、あんな壮絶な目に遭ってきた母に、ここまで言わせる喜びが……子育てにはあるってのか……?
ほんなら、わたしも、やってみたほうがよくね?
スマホのメモ帳を見返すと、一年前のわたしはこんなことを書いている。
「子どもを育ててみたい。わたしはなにをどうやって手に入れて、いつ失ったのか、忘れていることが多すぎるから」
なんやこれは。書いたことも覚えてねえ。
でも言いたいことはわかる。わたしは子どもだった時のことを忘れすぎている。大切なものを心に受け取った瞬間を、一生思い出せないし、書き残せないのが悔しい。
子どもと過ごすうちに同じ瞬間をもう一回、体験できるんちゃうやろか。たとえばわたしが子どもの運動会にギリで駆けつける最中に「あっ、これ、父にもやってもろたわ」みたいに、思い出せるんちゃうやろか。
それができるなら、娘としても、作家としても、幸せなことだと思えた。子ども産んでみたさが、何日もかけて、ふくらんできた。
……と、いろんな理屈をこねくりまわしたが。何よりも、子どもを育てたいと夫に打ち明けたら
「うおおおおおっ!よっしゃ〜!」
大歓喜咆哮のおかげで、理屈を気持ちが上回ってきた。
子どもを産む未来が、いつの間にやらスッとわたしの脳にインストールされた。もう確定事項っていうか。あとはワクワクしながら、時を待つだけっていうか。
いやはや、こんなに気持ちが変わるなんて、まっこと不思議!
ただ、子どもって、ふつうにできるもんだと思ってた。
保健の授業でも「気をつけなあかんで」と口すっぱく教わったし、中学3年生の時はドラマ『14才の母』が爆流行りしたので、ミスチルのしるしを聴くたび「うっかりできてまうんや……」と思い出した。
まあつまり、うっかりしてりゃ、簡単にできるはずだと。
……できなかった!
わたしは生まれて初めて、排卵というシステムを調べてみた。
生理アプリを開くと、その日の妊娠確率が「高」とか「中」とか「低」とか書いてある。わたしはこれをルーレットの倍率みてえなもんだと思ってた。高なら爆裂★大チャンス、低でも当たるしなんならWチャンス発動、みたいな。
ちがった。
卵子って24時間しかもたなかった。
めちゃくちゃ足が早いやんけ。コンビニのおにぎりかよ。と思ったら、コンビニのおにぎりの方が全然長かった。賞味期限切れのもんばっか食べまくっている劣悪なわたしの体から、そんな新鮮なものが生成されているなどにわかに信じがたい。
つまり妊娠できるかのチャンスは一月にたった24時間。しかもわたしは生理が不規則なので、その24時間がいつくるかもわからん。
くっ……保健の授業で妊娠の難易度も言うといてくれや……!
ファミ通の攻略本を見習ってくれや……!
そう、わたしは今年で35歳。『きみは赤ちゃん』で川上未映子さんが出産したのも35歳。もっと歳上でバンバン産んでる時代やし、と頭ではわかってるものの、やっぱり焦ってしまう。
そっからのわたしは俊敏だった。残像が見える速さで婦人体温計とやらを買い(なんだこの婦人ってだけで3倍も値段する体温計はよ、レディースと名のつくもんでお得にならんことあるんか)、排卵検査薬(嘘だろ2000円もするのに毎月買い足せってのかよ)とやらを買った。
これで一年妊娠できなければ、次は不妊治療となり、さらにごっつい桁違いのお金がかかるらしい。
……世の中のお母さんたちは、つわりが辛いとか、産むのが痛いとか以前のスタートラインで、こんなに気力も財布も削られる厳しい戦局をくぐりぬけてきたんか?すごない?武将か?
数ヶ月後。
妊娠できなかった。もうええわいと投げやりな気持ちになり、ウズベキスタンへ新婚旅行もした。もともとする気はなかったが「新婚、新婚、わたしは新婚……新婚だからまだ余裕……」と暗示をかけにいったのだ。
帰国した朝、わたしは夫のみずきくんが焼いてくれた、ぺっしゃんこのホットドッグを食べていた。
皿に残ったケチャップを見ながら、ああそうや、今日ぐらいから生理くるわ、くそったれがもうあかんわと気分が沈んだ。生理のおかげで妊娠できるのに生理を忌み嫌ってしまう矛盾。
一応、妊娠検査薬を使ってみた。
あれ?
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