【キナリ★マガジン更新】命がけでととのえ、性善説サウナ
フィンランドといえば、ってことで。
サウナ、行ってきました。
わたしは7月生まれで暑さに強い。そりゃもう猛烈に強い。サウナに入っても、全然、汗かかねえの。張り合えちゃうの。
だから、サウナ好きじゃないんですけど。
北欧、刺激がなさすぎて(いい意味で)、4日目にはやることが完全に尽きた。そんならサウナでも行ってみっかという消去法。
ヘルシンキのド真ん中から電車とバスで一時間かけて、クーシヤルヴィ(Kuusijärvi)へ。
森!湖!そしてサウナ!
って聞いてたんで、ウッヒョー!BRUTUSの表紙みたいに洒落こめるんじゃねえのって思ってた。静かな湖畔の森の影から的な美しげのビジュで。
あっ……
熱海……?
なんだかものすごく親近感がわく人口密度とくたびれリゾート感。フィンランドとは思えない。
湖の遠くに見える木の、ほっそい三角形のシルエットを見ると、フィンランドなんだなと思う。奥は北欧、手前は熱海。
ここはヘルシンキからも近いから、休みになったら家族づれでフラッと遊びに来るような場所らしい。
山小屋みたいな受付で、
「あの……サウナに入りたいんですけど……」
と聞いた。
「煙と電気があるよ!どっちがいい?」
選べるの?
ポケットモンスター 煙 / 電気 みたいな突然の二択に迷ってたら、
「観光で来たんだったら絶対煙がいいよ!煙にしなよ!」
ゴリ押しされて煙になった。腕にフェスみたいなバンドを巻いてもらい、水着に着替えて、森の奥へトボトボ歩いていく。
道の途中に丸太小屋があった。
ここがサウナか。
なんも考えずに扉を開けた。真っ暗でなんも見えんかった。後ろの人に急かされて、暗闇へ一歩進んだ。
「……?」
ブワワワーッ!
一瞬で汗が吹き出た。
体溶けたんかと思った。
あついあついあつい!
熱気が頭蓋骨を容赦なく包みこんでくる。早く座る場所を見つけなければ、卒倒するぞ。しかし、灯りはたったひとつだけ、くすんだ窓ガラスから差し込む光のみ。全然見えん。
でもなんか……ものすごい人の気配がする……。
わかる、わかるぞ。
小屋にギッチギチに汗だくの人間が詰まってる。
怖い!
息づかいだけで満員がわかるの、超怖い!
こう、なんだろう、極悪人どものひしめき合う監獄にブチこまれた初日ってこんな感じなんやと思う。
とりあえず奥へ行こうとしたら、足裏がムギュッ。知らんおじさんのベチョベチョに照り焼かれた太ももを踏んでいた。
「Oh!」
「すみません!すみません!」
小屋の中は階段になっている。そこで座るらしい。慎重にのぼっていこう。丸太の手すりらしきものを掴んだ。
ジュッ。
手のひらが焼けた。
あついあついあつい!
手すりを持つと手がやられる。手すりなのに。おまえはなんのために生まれたんだ。
なぜこんなにも熱いのか。
暗闇で目をこらすと、手すりの奥に……何かが見えた……!
黒い山があるなあと思ってたものは、大量に積まれた焼き石だった。しこたま熱されたチンチンの石が、やたらめったら熱いのだ。
しかもわりと、なんか、オープンに置いてある。丸太で柵らしきものは作られているが、間がスッカスカ。
こんな金萬福が使いたてのフライパンみてえな凶器を、むき出しで!?
さっき、もし転んでたら、頭ごと突っ込んでいたかもしれない。
いきなりステーキと同じ状況になっていた自分を想像して、ゾッとした。命が危ない。一歩ずつ、慎重に、慎重に、階段をのぼる。
ミッチミチでヌルヌルの人たちの間を縫って、最上段の端っこに、なんとかひとり分の居場所を見つけた。
座って、一息つく。
暗闇のあちこちから、声が聞こえる。観光客の日本語も混じっているけど、フィンランド語がいちばん多い。若者も老人もみんな談笑している。
そして圧倒的な煙の匂い。煙サウナは、朝から6時間かけて小屋を煙で充満させる、フィンランドの伝統的なサウナらしい。
……にしても、あつすぎる!
日本みたいに温度計もテレビもないが、100℃など余裕で越えている。入浴とかそういう火力ではない。これは調理とかの火力である。
その時、信じられないことが起きた。
下段のほうで、フィンランド人の小柄なおじさんにいた。4人ぐらいの仲間と来ているようだが、キイキイした笑い声で、会話をブン回している。
そのおじさんがおもむろに、でっかいバケツに水を汲んで、
バッシャー!
焼き石に水をぶっかけた。
ジュワワワワワワーッ!
水は一瞬で蒸発し、すさまじい量の水蒸気に変わる。天井にのぼって、落ちてくる。これがもうびっくりするぐらい熱くて。目が開かない。
「アッハハハー!◯✕△……!」
バッシャー!
あろうことか二度目!さ、三度目だと!?
下段は一番、熱気が伝わるのは遅いのだ。一番の安全地帯にいるやつが、水をかけ続けるのはEvilすぎる。
だめだ。
アワビの酒蒸しになる前にたまらず立ち上がったら、他の人も「むりむりむり!」と悲鳴を上げながら、続々と降りていった。
小屋を出た。
出たっつうか、焼け出された。
真っ赤っ赤の肌になったタコ人間たちが、一目散に森の奥へと走る!
湖である!
「ヒャッホー!」
ドボンッ、ドボンッ。
人が飛び込んでいく。
しかも橋でおもいっきり助走をつけ、大胆に。
湖が水風呂代わりなのだ。
日本のプールは飛び込み禁止なので「すげえーっ!」と興奮しながら、わたしも後に続いた。
ドボンッ。
冷たい。7月で水温は22℃ぐらいだった。頭まで一気に冷やされるのが気持ちいい。わたしは胎児のようなポーズで、沈んでいった。
……。
………。
足……つかねえな……?
えっ、溺れる!?!?!?!
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