【キナリ★マガジン更新】【小説】聖母の天職(5-債権管理会社 白髭真衣子の証言)
あらすじ 探偵・相沢たくみに「婚約者の仕事を調べてほしい」と依頼する御曹司。聖女のように可憐で清楚な恋人の職業は———借金の取り立て?証言を重ねていくたび、奇妙な彼女の人生が浮かび上がってきて……。全8話完結、第1話はこちら(装画は星野ちいこさん、本作のための描き下ろし)
川野鞠亜を調べていくうちに“借金の取り立て”という業務で行われていることが気になりはじめていた。
鞠亜の所属するナブディス・フィナンシャル・エスの登記情報を調べると、東京に親会社があった。ノアズアーク債権管理株式会社。ナブディスと同じ債権回収業だが、こちらは軽い債務の初期対応が専門のようだ。
雑談を装って熊谷にたずねたら、
「ああ、ノアズアークな。自分とこで手に負えんようなった案件を流しとる会社や。おれは関西専門やから、あんまり付き合いないな」
と即答した。
採用WEBサイトに「社員インタビュー」のページがあった。
白髭真衣子、人事部シニアマネージャー。
まっすぐの目を向けて話している彼女は凛々しい。愛想笑いもない。シルバーフレームのメガネやきつく結い上げた黒髪は、真面目で隙のない印象を際立たせている。
経済産業省が昨年「債権管理業務の適正化に向けた実態調査」というレポートを公開している。今年も民間事業者へのヒアリング協力を募っていたので、おれは委託された調査員を装って、白髭にメールを送った。
書店で『月刊クレジット産業』という業界誌を取り寄せ、読みながら待っていると、二日後に返信がきた。
日時 2025年5月27日11:00
電話による取材
対象者 白髭真衣子(31歳)
もしもし。わたくしが人事部の白髭です。
メールでも申し上げましたが、債務者の個人情報については一切お答えできません。業務上の仕組みについてであれば、喜んでご協力します。
わたくしどもも、このところニュースで取り上げられるような他社の強引な取り立てには、辟易しておりますので。
弊社は、軽度債務の初期対応が専門です。お支払いが遅れている方に、まず書面と電話でお知らせする。そうです、あくまで通知です。ご自宅には参りません。
……え?先月の『月刊クレジット産業』のコラムをお読みくださったんですか?
ええ、はい……確かに、わたしが書いたものですが……。
それはどうもありがとうございます。……ふふっ、嬉しいです。わたしはただ、誠実にあるがままをお伝えしただけですけれど。でも、はい、おっしゃるとおり、優良企業に認定されたおかげさまで、新卒の応募もかなり増えまして。業界のイメージ向上に少しでも貢献できたのなら、筆を執った甲斐もございます。
ご質問は、業務の健全化にむけた仕組みですね?
初期対応で動かなかった……つまり返済されなかった案件は、京都のグループ会社に引き継ぎます。
そうですね、他社も西日本にはかならず支社やグループ会社を置きます。だいたいは大阪でして、弊社のように京都と連携しているのはめずらしいかもしれません。
ちゃんと理由があります。重い債務を抱えた方は、関東から関西へ移られるケースが多いんです。……まあ、よくご存知ですね。
“債務者は南に流れる”
業界の通例です。三年前の『月刊クレジット産業』に書かれていた?あら、行政の方でも、そんな細かいところまでお読みになられているんですね。
お住まいやお仕事を失ってご不安になると、気候の温かな地域へ行きたくなるお気持ちはわかるのですが……そこまで生活を犠牲にする前に、弊社のオペレーターと建設的な対話をして、無理のない返済計画を立てていただきたいのが本音です。
京都への引き継ぎは、こちらとしては正直、避けたいことです。半年以上かけて回収できなかった案件を渡すわけですから。業績も下がりますし、重度の債務になりますと、法的措置に移行しても最後まで回収できないこともあるんです。
……ええ、そのとおりです。多重債務や自己破産です。
ただ、一点だけ。
仕組みとして、非常に興味深い例がありまして。
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