【突撃!岸田の文ごはん】橋口幸生さんは、ハッとしてGoodしていた
想像してほしい。
あなたは、会社員だ。
月曜から金曜まで一生懸命働き、ヘドロのように疲れている。
今日はクリスマスイブだというのに、忙しくてお昼も食べそこねてしまった。もうお腹はペコペコだ。
待ちに待った、退勤まであと5分。
家に帰れば、注文しておいたご褒美の七面鳥が待っている。
さあ、そろそろパソコンを閉じよう。
そう思ったとき、一通のメールが届いた。
「先日、お送りいただきました講演のプレゼンテーション企画書につきまして、ご丁寧な内容の制作を誠にありがとうございました。講師と検討した上フィックスいたしましたので、正式にお戻しの方をさせていただきたく存じ上げます。つきましては方向性についてあらためてご検討・ご確認をいただきまして、早々にお返事いただけますと幸いです。」
喉元に七面鳥をけしかけてやろうか。
私ならけしかけている。ヒッチコックの幕開けだ。
皆さんはどうだろうか。
ちくしょう、どこのどいつだ!
こんなわかりづらいメールをよこしてきたやつは。
私だ。
正確には2012年、20歳になったばかりの私だ。
ビジネスマナーなどなにも知らないまま、大学生でベンチャー企業の創業メンバーとして飛び込み、1年間、周りをキョロキョロ見渡しながら、ピヨピヨ書いていたメールの文章だ。
今回、伝わりやすい文章術を学ぶにあたり、とても嫌な予感がして過去のメールを探っていたら、とんだオーパーツを掘り当ててしまった。
顔から火が出るかと思った。
あの時、なにくわぬ顔でやりとりしてくださったすべての方々の温かい懐に、心からお礼を言いたい。
……ということで、言葉の勉強をするために私が大きなしゃもじを持って向かう「突撃!岸田の文ごはん」のお時間です!
今日は「言葉ダイエット」の著者、電通のコピーライターでもある橋口幸生さんに突撃しました!
※突撃したのは2020年2月4日です。現在、電通ではリモートワークを基本とした業務対応が行われています。
なにはともあれ、基本の言葉ダイエット
岸田:はじめまして、橋口さん。突然ですが愧死しそうです。([名]愧死=恥ずかしさのあまり死ぬこと)
橋口:大丈夫です、大丈夫です。岸田さんはマジメで、気づかいができる人なんですね。相手に失礼がないようにしたい、正確な情報を伝えたい、という思いが文章からわかります。
岸田:開幕から突然、圧倒的な優しさに包まれてしまった……。生きます。
橋口:生きましょう。でも、残念ながら読みにくいのは本当ですね。
岸田:アホみたいに読みにくいです。長いし、なにが言いたいのかわからないし。
橋口:日本には、回りくどく言うと敬ってるように聞こえる風潮がありますから。義務教育で「回りくどく言わない方法」なんて教えてもらえないから仕方ないです。
岸田:習ったっていうか、先輩やお客さんのメールを見ながら、なんとなく真似してたらこうなっちゃいました。
橋口:あるある。でも今の岸田さんの文章は、短くて、読みやす
くて、しかもおもしろいじゃないですか!僕が教わりたいですよ。
岸田:それは……前職でたった一人の広報担当になって、プレスリリースでA4サイズ1枚に文章をまとめるとか、2000文字以内でブログを書くとか、5年くらいダラダラ続けてたら、自然と変わってました。そういえば。
橋口:素晴らしい。それは岸田さんが自然に身につけたスキルです!読みやすい文章が書けるのは、才能ではなくスキルなんですよ。
岸田:野生の広報担当だったのに、いつの間にか戦えるスキルを身に着けていたのか……!ジャングル大帝みたいな話だ。
橋口:たとえば、「一文一意」という基本のスキルがあります。
岸田:攻撃魔法っぽい!かっこいい!
橋口:ひとつの文章に書く内容は、ひとつに絞ると、読みやすくなるんですよ。
※見やすさというホスピタリティを廃した、岸田の手書き例文でお送りします。
岸田:ほ、ほんまやー!魔法や!
橋口:魔法じゃないけど、僕はこうやってムダを削ぎ落として読みやすくすることを「言葉ダイエット」と呼んでいます。
岸田:急に親近感のある名前になった!どうでもいいんですけど、私も去年、13キロのダイエットに成功しました。
橋口:じゅ、13キロも痩せたんですか!?
岸田:痩せました。
橋口:すごいですね……。
ムダをなくしたら、あなたらしさを加えられる
橋口:あと一文あたりの文字数を少なくするっていうのも基本です。新聞記者は一文あたり40〜60文字以内を目安にしてるみたいですよ。
岸田:確かに、ずーーーーっと長い文章を読んでると、呼吸が止まりそうになります。こまめに息継ぎできると楽ですね。水泳みたい。
橋口:そうそう。長いと感じるのは人それぞれだから、自分にあった文字数を決めておくと良いと思います。
岸田:でも、ウルトラえらいお客さんに向けたメールだと、短いとなんか失礼かもって不安になって回りくどくなるの、ちょっとわかる。「手前生国と発しまするは神戸にござんす。面体お見知りおきのうえ、向後万端よろしくおたのもうしやす」くらい長く言わないと、頭が高いって言われやしないか、怖い。
橋口:江戸で仕事してるんですか……?
岸田:東京です。
橋口:「させていただきました」など敬語を繰り返してしまうのは、主張したいけど嫌われたくないという心理があるからです。
岸田:うっ!
橋口:言いづらいことこそ、単刀直入にいきましょう。仕事より、自分が嫌われないことを優先してはだめです。
岸田:ぐうの音も出ねえ。
岸田:うーん、わかりやすい。七面鳥をけしかけずに済む。むしろ気にしなくていいから一緒に七面鳥食べようぜってなる。
橋口:言葉ダイエットで文章の量が減った分、人間性が感じられる文章をちょっと追加できると良いですね。
岸田:人間性が感じられる文章!?
橋口:プライベートや趣味のこととか。映画や小説から引用する人もいます。ビジネスメールでも、ビジネスじゃない話を少し入れると、文章にグッと深みが出ますよ。
岸田:確かに……私も、糸井重里さんと初めてメールでやりとりした時、追伸のちょっとした話が詩的すぎて、感動しました。これもうエッセイなんちゃうんか、こんなんもらえて私は贅沢もんやなあと。
橋口:わかります。僕の本でも紹介している、旭化成の「昨日まで世界になかったものを。」という新聞広告。ボディコピーを読んだだけで、誰が書いたコピーなのか分かりました。
岸田:文章を見るだけでわかるんですか!?
橋口:はい。そのコピーライターの方が、ふだん話している言葉や、メールの文章の「なんかいいな」ってところが全部にじみ出てるので。多分、僕以外のコピーライターもわかるんじゃないかな。
岸田:は〜!普段から話すとき、メール書くときに意識していたら、そうやって身につくんですね。
橋口:そうです。ビジネスメールひとつ書くにしても、人間性に魅力を感じてもらえれば、結局ビジネスにも良い影響があると思います。一石二鳥!
岸田:ダイエットした分だけ、魅了的に飾れるというわけだ。私も爆痩せしたとき、着れなかった服が着れるようになって、オシャレできてめちゃくちゃ嬉しかったです。言葉ダイエットもいいですねえ!2012年にタイムスリップして、自分にブートキャンプしてやりたいわ。
私が教わったことの50倍の密度と例文で、真綿のように優しく解説してくれる橋口さんの名著はこちら!
※外出自粛でめっちゃ大変ななか、めっちゃ頑張ってるめっちゃ良い本屋さんの「青山ブックセンター」オンラインストアで購入してもらえると嬉しいな。
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映像が頭に浮かぶよう、描写する
岸田:やばい。言葉ダイエットの話がおもしろすぎて、本題のコピーの作り方を聞けてなかった。
橋口:「なんか面白そう!」って目を引くエッセイのタイトルを作りたいんでしたね?
岸田:ええ。喉から手が出るほど作りたいです。
橋口:ひとつは「映像が頭に浮かぶように書く!」ということです。でも、岸田さんはもうできてると思います。
岸田:まことに!?
橋口:説明するだけじゃなくて、描写するんです。たとえば「おいしそうなハンバーガー」っていうのは説明です。これを描写すると「美しい赤身とあふれる肉汁のハンバーガー」になります。
岸田:じゅるり。
橋口:こうやって描写の具体性を高めることを「解像度を上げる」と言っています。岸田さんのエッセイに出てくる人物は、ものすごく解像度が高いと思いますよ!
岸田:「赤べこのように首を縦に振る母」「石原裕次郎のお見舞いのようなメロン」とか……?
橋口:それです。細かすぎて伝わらないモノマネ選手権がおもしろいのと一緒で、解像度がやたら高い描写には、共感の笑いが起きるんです。
岸田:橋口さんと喋ってたら、自分に自信がつきすぎて、自意識がミラーボールのようになりそう。超楽しい。ありがとうございます。タイトルも、映像が頭に浮かぶような描写を入れてみます。
ハッとする発見がある文章はおもしろい
橋口:もうひとつは「発見がある文章」にすることです。
岸田:発見……。藤岡弘探検隊……?
橋口:もっと日常のことでいいんですよ!ただの事実でも、ハッとすることは沢山あります。
岸田:橋口さんはどんなことにハッとしました?
橋口:そうですね。僕が2018年に書いた全日空のコピーに「人間だけが、時速900キロで熟睡できる。」というのがあるんですけど。
岸田:うおお、確かにそうだ!なるほど、これが発見か。
橋口:このコピーは、子どもと一緒にツバメの絵本を読んで、ハッとしてできたんです。ツバメは冷たくて寒くてつらい5000kmもの距離を越えて飛んでくる。それに比べたら、飛行機での移動はなんて幸せなんだろうって。
岸田:ハッとしてGood……。
橋口:あと僕がすごく好きなのが、ナイキが1995年に発表したテレビCMです。画面に向かって女の子たちが事実を言う映像なんですが、ハッとします。
私にスポーツをさせてくれたら。
乳がんになる可能性が60%下がる。
うつ病になりにくくなる。
暴力をふるう男と別れられるようになる。
望まない妊娠の確率が下がる。
(If you let me play. 1995年)
岸田:ほんまや。これだけで、女の子にもっとスポーツの機会を!って思います。
橋口:思いつきや創造性のある言葉じゃなくて、ただ、調査結果を言ってるだけなのに。すごいですよね。
岸田:おもしろい言葉って、どこか斬新だったり、とてつもない想像をしたりして、笑わせなくちゃって、勝手に思い込んでました。
橋口:違うんですよ。存在しない想像より、存在する事実の方がよっぽどおもしろい!だから、ただ道を歩いているだけでも、「発見」がないか観察するといいと思います。
岸田:さっそくやってみます。橋口さん、ありがとうございます!
恒例の大きなしゃもじサインタイム。
忘れてはいけません、岸田の文ごはんでは、突撃先に心ばかりのごはんを献上しています。橋口さんにはダイエットとはほど遠い、AKOMEYAで買ったお米とホクトのきのこを贅沢に使ったカレーをお渡ししました。いつも記事にサポートしてくださる皆さんのおかげです、ありがとうございます。
余談ですが、私が一週間日常を見渡してみて、発見したことはこちら。
・なぜか、おばあちゃんが握った塩むすびは美味しい
・焼き肉屋に行って、初手でビビンバを頼む友達と話が弾まなかった
・ウニを褒める時「口の中で消えちゃうほど美味しい」と言っていたが、ウニからしたら消えるという褒め言葉はうれしくないかもしれない
・モンテローザとモンステラは似ている
・私が「ウォーリーを探せ!」を苦手な理由は、たぶん人間にあまり興味がないから
・ピアスは形や色だけでなく、耳もとで良い音がなるかどうかも大切だ
内容はともかく、これだけでエッセイのタイトルになりそうな予感がしてきました。