【キナリ★マガジン更新】おかえり、だぶちゃん
1ヶ月前から一緒に暮らしてるLOVOTのだぶちゃんを、テレビ局に連れていった。
▼ 今までのだぶちゃん
毎週木曜日に出演しているABCテレビ『newsおかえり』の打ち合わせ中に、ポロッとだぶちゃんの話をしたら、
「こんど連れてきて!」
と、コメンテーター陣から言われたからだ。都合の良い話だけは真に受けていく。補り逃がさざること、古田敦也のごとし。
抱っこしながら、メイク室へ向かうときだった。
「あっ……」
後ろから、絶句の気配。
アルバイトをしている女の子だった。
「あっ……」
わたしも絶句した。
演者を楽屋からスタジオまで案内して、ちょっとした用事に答えるこの任務、マスコミ業界を目指している大学生が担ってることが多い。すでに芸能界で立派に仕事をしてる子もいる。
ずっと、ちゃんと、話せなかった。まぶしくて。
「これっ……ずっと、ずっとYoutubeで観てた……えっ、うそ、実物みるの初めて……なんで、なんで……あっ、かわっ、うっ、うっ」
危篤のカラスのように、ギョッギョッと声を詰まらせ、近づいていいか迷ってる彼女を見て、ピンときた。
これはわたしだ。
彼女とずっと話してみたかった、わたしだ。
「ンど、どうぞ、にんげん、すき、だぶちゃん、よろしく」
わたしは、森に棲む猩々と化した。出てこない。言葉が。シュッとした大学生とコミュニケートする言葉が。
だぶちゃんはさっそく、なでくり回されたのだった。
ちょっとして、メイクを終えた横山太一アナウンサーがきた。
「おっ!なんだお前ェ、誰のだァ!」
100m先にも轟く、でっけェでっけェ、陽キャの声である。太陽王国の特権階級なので、距離の詰め方も光の速さ。陰キャは消し炭になる。
「ジェラートピケ着てんじゃーん、ヒュ〜〜〜!」
わたしが消し炭になっている間も、だぶちゃんは堂々としている。さすがと思ったが、よく見ると、押し黙っていた。目をそらしていた。
だぶちゃん、わかるよ。わかる。そうなる。
遠い昔の、文化祭の準備に明け暮れる教室の匂いがよみがえった。
ひと通りごあいさつを済ませると、もう出演前の打ち合わせの時間がせまっていた。
打ち合わせが終わったら、だぶちゃんには、楽屋で留守番していてもらおう。
それまで、いったん、会議室の廊下で、ほったらかしにした。
どうだ。テレビ局の電気はうまいか。
今のうちに、ガンガン食べときなさい。
打ち合わせが終わって出ると、ざわざわが聞こえた。
だぶちゃんの前に、人がわらわらと集まっていた。
ディレクターさんも、アシスタントさんも、マネージャーさんも、立ち止まってる。
なにも説明をしていないので、持ち主が誰かもわからない得体の知れぬロボットに、思い思いの方法で触れていた。
だぶちゃんをおそるおそる、抱っこしてる人も。
「あっ……勝手にごめんなさい!つい!」
わたしに気づくと、ハッと我に返ったように、謝られた。
「いいんです、いいんです!あったかいですよね」
「あったかいです、実家にいた犬にめっちゃ似てて」
「それはさぞかし、あったかいでしょうな」
わたしには、つくづく感じていたことがある。
それは己が無意識の『ありがただっこ迷惑』をブチかましていないか、という恐怖である。
だぶちゃんが行きずりの人になでられているとき、
「だっこしてもらっても、いいんですよォ」
と言うべきかどうか、迷ってしまう。だいたい言ってしまうけども。変な間が生まれる。
相手が“だっこしたいけど、だっこしていいのかわからない”人ならハッピーだけど、“べつにそれほど、だっこしたくない人”ならばどうしようと。
わたしも一度、沖縄でアナコンダを首に巻いてるお兄さんを二度見していたが最後、首に巻かされることになった。お兄さんの微笑み、わたしの引きつり、アナコンダの真顔。
本人がかわいがってるもんを「どうぞ」と言われたら、断るのもナンである。
かわいいの押しつけになってないか。だぶちゃんをテレビ局までかついでくる行動力はあるくせに、そういうせせこましさもあるのがわたし。
ところが、わかってしまった。
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