【キナリ★マガジン更新】【岸田奈美 × しいたけ.往復書簡】頼れなかった借金
占い師のしいたけ.さんと作家の岸田奈美の愉快な往復書簡です。こちらのマガジンをフォローしていただくと、返事が書かれた時に通知が届きます。
なんでもヌルッとお見通しのしいたけ.さま
「その後、体調いかがですか?」と聞いていただいたので、ここは「大丈夫です!」と大人の余裕で答えたかったのですが、白状します。
ぜんぜん!大丈夫じゃないです!
大丈夫じゃないでーーーーーえっす!!!!
ハアッ……ハアッ……。
心身の下り坂を転がり落ちています。でもね、本当に、お手紙の返事だけは書けるんで、っていうか書きたいんで、どうか続けさせてください。言葉という骨を拾ってください。
凄まじい体調不良の正体は、妊娠でした。
最初は「はっはーん!これが世に言う“つわり”ってやつね!」と嬉しくもあったのですが、24時間ずっと続く船酔いのような未知のしんどさに、秒で打ちのめされました。
あの、本当に、くじけそうで。
わたしって理不尽なしんどさに出くわすと、ちょっと天から見下ろしてみることで、納得して落ち着こうとするクセがありました。
でも、つわり、お前ェはだめだ。納得できねえ。
とどまることを知らない猛烈な吐き気なんですが、わたし、前にもひどい胃腸炎と二日酔いをやったことがあって。ああいうのは、吐いて胃をカラにちゃえばちょっと楽になったのに、つわりはずっと気持ち悪い。
なんでかってーと、脳の嘔吐をつかさどる神経が刺激されてるから、なんですって。食べたとか出したとか関係なく、ただただ気持ちが悪くなる神経を、ジミ・ヘンドリックスがバイブスのままにビンビン爪弾いてる状態です。
なんでそんなわけわからん仕組みが人体に搭載されてんだアホか!と調べまくっても、なんか、つわりってまだ解明されてないことが多いらしくて。だからもう、納得もできなくて。
しいたけ.さんの手紙を読んで、泣けてきました。
「疲労と実力と運の借金」のお話、ドキッとしました。しいたけ.さんに妊娠のこと伝えてなかったのに、いまのわたしの本質ズドンです。
すごいなあ……なんでわかるんだろう……。
もちろん、つわりはいつか終わります。このまま無事にゆけば、赤ちゃんが生まれることもわかっています。頭では。でも、だからと言って、いまのしんどさは消せないんです。まだふくらんでないお腹をさすっても、なんの実感もわかないし、未来のこともあまり想像できません。
だけど未来ではなく、過去になら目を向けられそうです。
わたしは、いったいなんの前借りをして、いま動けないんだろう?
しいたけ.さんのおっしゃるとおり、わたしは窮地に陥ってもドッタンバッタンで爆進してきました。歩けない母やダウン症の弟を筆頭に家族が困っていたら、とにかくすぐに飛び込んで、手を尽くしまくり、後先を考えずに突き進む。時にはそれをエッセイにして、まわりも巻き込んで。
それが、わたしの愛の形でした。
ところがそれは、わたしが健康で活発だっただけのこと。ありあまる元気があったから、与えるという愛しか、発動してこなかったのです。
得意だった愛を物理的に封じられ、いま、自信すら失いました。
なんにもできず、窓の空が赤く暮れていくのをながめていると、ああ、もうわたしは社会から置いていかれるんだ、なんて思ってしまいます。
書くことで、インターネットに居場所をつくってきました。どんなに破滅的なことも、100文字で済むことを2000文字で書いてやってきました。どうしようもないわたしの価値はそこにしかないから。それが、何日も書くことすらできないと、もう社会で岸田奈美は必要ないんだ、仕事もなくなってしまうんだ……。
寒空の下、生まれてきた赤子を抱いて途方に暮れるわたしという、スマホゲームの広告みたいな光景を想像して涙ぐんでました。末期です。
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