【キナリ★マガジン更新】弟のために働きやすくて儲かる店を用意したのに、勝手に副業されて破綻した

 

家族で小さなバザーを開くことにした。

わたしの服や本、母の食器などが、家をパンッパンにしていたので、ピャーッと手放すことにした。思い出の品々を手にとりながら、値札をつけていくのは、なかなか骨が折れた。

弟がなにか言いたげに座っていた。

「……アンタもなにか売りたいんか?」

弟がコクコクコクコクと赤べこのようにうなずいた。

ダウン症の弟は、ずっとお金を稼ぐことへのほのかな憧れを抱いている。

福祉作業所でもらえるお金は、昼食代を抜けば一ヶ月で小銭が何枚かしか残らない。

グループホームで暮らしはじめた弟は、部屋におひとり様用のミニ冷蔵がほしいらしい。あれは大人の夢やけども。

だけど、自分の稼ぎでは2万円の冷蔵庫はいつまで経っても買えない現実に、気づきはじめているようだった。

切ないぜ。

「でも、良太が売れるようなもんってないしな……」

高価な買い物を自分でしないので、いい中古品がない。
弟がうつむいた。

久しぶりに、めくるめく姉心がギューンッと爆縮した。


「待ってろ!姉ちゃんがなんとかしたる!」

わたしは考えた。考えに考えた。

バザーの日に弟にもお店を出してもらえばいい。わたしたちの中古品とは別で、弟がお金を稼げる手段を作ろう。

とはいえ、障害のある弟には、できないことも多い。

わたしと母は中古品を売りさばくのに忙しいから、いつもみたいに弟を手伝ってあげられない。ああ困った。人員を増やすべきか?

……。
いや、落ち着け。

できないことを無理にやらせるんじゃなく、できることを伸ばすのが、最高の経営者ではないのか?

弟が苦手な作業を、徹底的に消そう。

まず弟は話を完ぺきに聞き取ったり、メモを取ることができない。つまりは複雑な注文を受けられない。

次に弟はお金の計算もできない。商売人にとって、もっとも致命的な能力の欠落だ。

これらを回避できる商売……ハッ……!

コーラ屋さんだ!


弟は無類のコーラ好きである。好きのおすそわけはきっと楽しいはず。

支払いは、お客さんに計算してもらうことにした。PayPayまたは小銭をためたボックスから、自分でお釣りを持っていく形式だ。

そうです。
田舎の野菜の無人販売から着想を得ました。

伝統芸能★
性善説セルフレジ!

できればキンキンに冷えたコップにそそいで、スタバみたくオシャンティかつラグジュアリーに提供したいところだが、弟にそんな細やかな作業をさせたら、絶対に手元が狂って、あわや大惨事になってしまうど。

缶のまま渡そう。

でも缶だと、原価がわかりすぎて高くできないよな。儲けで冷蔵庫を買うなら薄利多売じゃ、きついし……。

あっ、そうだ。

ステッカーをおまけにつけよう。

これは以前、弟が描いてくれたわたしの似顔絵である。髪と歯が抜け落ちて限界を迎えているが、なぜか明るく笑いながら、こちらへ向かってきている。

岸田奈美という存在への解像度が高い絵……!

これならギリ500円という法外な値段でも許される。

クックックッ……!
完ぺき……!

バザーというほのぼのとした会場の一角で、完ぺきな独立国家を樹立させてしまった。弟から一切の苦しみを取り払い、商売をさせる優しいケツモチ、それが偉大なる姉である。

当日になって、弟が暮らしているグループホームの仲間たちが手作りした焼き菓子が緊急入荷した。

どっこい!慌てるこたァ、ないんだぜ!

このシステムは弟の負担を最大限に減らしているので、焼き菓子も売ることができる。

己の才覚に、胸が熱くなった。

わたしにはいつか夫のお寺の一角で、障害のある弟たちが働ける場所を作りたいという、薄めたカルピスぐらいの夢がある。

今回の成功例を磨きあげ、マチュピチュ直輸入のスペシャリティコーヒーとか、トム・クルーズにプロデュースしてもらった手作り羊羹とかを、いつかオシャレに売れたら……♪

おい寝るな!開店前やぞ!

バザーが始まると、ドドドドドとお客さんが押しよせてきた。

わたしは会場の奥で、本にサインをする仕事があったが、しばらくコーラ屋を梁の影から観察していた。

よしよしよし!売っとるな!

ほくそ笑みながら、わたしは奥へ引っ込んだ。

「あのお……岸田さん、ちょっといいですか?」

お客さんがヌッと顔を出した。

「コーラを買いたいんですが、コーラ屋さんがいなくて」

なぬ?

ちょっとすみませんと列の人に謝って、わたしは確認に走った。

マジで、もぬけの殻だった。

トイレにでも行ってるのだろうかと思ったが、ずっと誰もいないという。

ま、まさか……
売上持ってトンズラしたのか!?

家族による骨肉の争い!ちくしょう!大塚家具になってたまるか!

ここからはキナリ★マガジンの購読者の方のみの公開です。毎年12月は弟がお世話になっている福祉施設の皆さん(障害のある方々67名)にクリスマスケーキを寄付しており、この記事の購読料・サポートのお金も使わせていただきます。noteを読むと、弟の仲間にケーキが届く!ありがとう!

※2025年12月1日(月)11:00 〜 2026年1月14日(水)18:00まで最大で全額戻ってくるキャンペーン中とのこと


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