母に駆け寄ってくれたのは小籔さんだった時のこと
2019年のお話だけど、ちょうどこの間、吉本新喜劇の人と話していて「小籔兄さんのアレって岸田さんのお母さんやったんですか!?」って驚かれ、思い出したので。
あの日は、仕事で東京に行っている母から電話がきたのだった。
「聞いて。さっきな、助けてもらった」
母は、車いすに乗ってるので、
人にはよく助けられる方だ。
「だれに助けられたと思う?」
知らんがな。
母は興奮気味に、説明してくれた。
品川駅で母は、タクシー乗り場へと舞い降りた。
腰から下がまったく動かない母が、ひとりでタクシーに乗るのは、実はとてもむずかしい。
何人かの運転手には、
「うちの車は乗りづらいと思うから……」
断られてしまった。
実際、東京では2021年のオリンピック開催をきっかけに、背の高いタクシーが増えていて、車いすから乗り移れないのだ。
並んでいる人が次々と乗り込み、ポツーンと取り残される母。
やっと乗せてくれるタクシーがきたが、車いすから降りるだけで、思ったよりも時間がかかる。
まわりの人も声をかけづらいみたいで、母はひとりぼっちでドタバタしていた。
すると遠くから誰かが、母をめがけて、ダバダバーッと走ってきた。
「なんかお手伝いしましょか?」
転げ落ちそうになっていた母は、声のあったかさと、コテコテの関西弁にホッとして、泣きそうになったらしい。
「……ゆーても、僕、何したらええかわからんので、教えてください!」
ズコーッ!
わからんのに、走ってきてくれたんかい!
勢いのよさに思わず笑ってしまい、母は顔をあげた。
「えっ」
小籔千豊さんだった。
びっくりして、固まる母に、
「教えてもろたら、なんでもやりますんで!」
と小籔さん。
いつも誰かに「大丈夫ですか?」と言われ、
反射的に「大丈夫です!」と断ってから、
後悔してしまう母なので。
小籔さんの声がけにはつい、遠慮せずに甘えてしまったそうだ。
母がタクシーに乗り込み、出発してからも、小籔さんはじーっと見守ってくれていたらしい。
すごい話やで。
何したらええか教えてください、って、なかなか言えへんよなあ。
母に聞いてみた。
「ちゃんとお礼言えた?」
「言ったと思うけど、緊張して、うまく言えたかわからへん」
「よし、今からでも伝えよ」
母がSNSに投稿をすると、またたく間に、ブワーッとたくさんの人が広げてくれて、2日には小籔さんのところまで届いた。
す、すごいぜ、インターネッツ!
この間はすんませんでした
好感度ご馳走さまです
みんなからよー褒められます
ありがとうございました— 小籔千豊(吉本新喜劇) (@koyabukazutoyo) February 20, 2019
好感度ご馳走さまです!?!!!?!?!
あっぱれ!おもろい人って、あっぱれ!
後日、ドラマで車いすの役を演じることになった、松坂桃李さんのインタビューを読んだら、
「車いすの練習がすごく大変で、困ることばかり。
そんな時、何気なくニュースを見ていたら、
小籔さんが車いすの人に声をかけたって。
すてきな話だなと思ったんです」
おもろい話は、伝播するのである。
なぜなら、おもろいから。
これ、2019年のお話ですけども。
小籔さんの話を思い出すたびに、わたしも、とっさにおもろい人になりたいと思うのです。おもろい人は、がんばって、がんばりまくったら、なれるけど。
とっさにおもろい人って、なかなかなれんのよな。
やから、街中で歩いとって、なんか困ってそうな人を見つけても、なかなか声をかけられへんのです。わたしも。心臓がバクバクするもんで。
やけど、5メートルぐらい、通りすぎてから、
「……あかん、あかん」
と後戻りして、声かけようかどうか、もっかい考えるんです。ああ情けない。これをチョロQヘルプといいます。
「なんかできることあったら、教えてください」
たまに言えるけど、あんなおもろいようには、どうにもまだ言えへんのが情けないんですわ。