【キナリ★マガジン更新】姉と弟の飲酒教習
その日、岸田家に爆風が吹き荒れた。
「良太さんが、お酒を飲んでしまいました」
なっ……
「お昼休みにコーラを買いに行くとコンビニに出かけて、帰ってきたら、缶チューハイを一口飲んでしまっていて。本当に申し訳ありません!」
なんですってー!
連絡をくれたのは、ダウン症の弟が通っている福祉作業所の職員さんだった。
寝耳に水ならぬ寝耳にチューハイをダバダバと流し込まれた母は、それはもう、うろたえた。
弟は27歳なので法律的には大丈夫とはいえ、昼休みに飲酒ったらもう、世紀末なんよ。
肝臓を酒で消毒していたという伝説のアル中を父に持つ母は、目眩で気絶しそうになった。
弟は、母から電話でギッタギタのメッタメタに叱られ、ションモリしながら帰ってきた。これで終わりかと思いきや、数日後。
「また良太さんがどうしてもビールを買いたいとおっしゃって……職員がお酒だとごまかして炭酸ジュースをすすめて、いま飲まれています」
あかん。
「な、なんで急にお酒なんか飲みはじめたんやろう。うちでは誰も飲まへんのに!」
しこたま謝り倒したあと、母は泣きそうだった。
そうなのだ。
岸田家は伝説のアル中である祖父をのぞき、叔父叔母も、従兄弟も、だれもろくに酒を飲めない。会社の打ち上げでイキッてビール三杯飲んだ父は、急性中毒で病院にかつぎこまれた。
わたしは成人式の日、カルアミルク二杯で、床を舐めるに至った。
食卓にも、酒が出たことはない。
弟がなぜ、27年目にしていま、酒を。
「奈美ちゃん、なんか心当たりない?」
「ないよ、ないない」
電話を切った。
いったんコーヒーをいれに行き、ソファに深く腰かけ、一息つく。
うん。
心当たりしかなかった。
このまえ東京で、友人の佐伯ポインティと、二村ヒトシさんとご飯を食べた。
▼記事の続きはこちら
https://note.kishidanami.com/n/n9c5d22f6befb
▼キナリ★マガジンとは
noteの有料定期購読マガジン「キナリ★マガジン」をはじめました。月額1000円で岸田奈美の描き下ろし限定エッセイを、月3本読むことができます。大部分は無料ですが、なんてことないおまけ文章はマガジン限定で読めます。